episode.8 恋セヨ乙女たち

10/17
前へ
/227ページ
次へ
強い日差しが肌を刺す8月初旬。 待ちわびた夏休みが始まり、10日が過ぎようとしていた。 グループココアの『恋セヨ乙女会』は、相変わらず、たわいの無い文字が飛び交い、ほとんどが比茉里ちゃんと明智さんのやり取りになっていた。 比茉里ちゃんは、学園祭の準備に追われる毎日を過ごしているらしい。 明智さんは、家族で沖縄旅行中だと報告があり、多くを語らない瀬崎さんのプライベートは謎のままだ。 私はと言うと、周さんに誘われて映画へ行く約束をしており、その当日の朝を迎えていた。 アイボリーのレーストップスにデニムのショートパンツ。 ひとつに結った編み込みを、フィル・ルージュのバレッタで留めている。 少し早めに着いてしまった私は、M Plazaのシネマ前で彼女を待っていた。 「鹿島ちゃん! 」 颯爽と歩いて来た周さんを見て、私は絶句した。 黒のハット帽に白のTシャツ、黒のレザーパンツにレースアップのショートブーツで現れた彼女は、周りの客の注目を浴びていた。 胸に(さら)しを巻いているのかと疑いたくなるような、細身男子のプロポーション。 ーーあの人、背高くてちょっとかっこいいよね。 ーー女の子……だよね? ーーいや、女顔の男の子でしょ。 さすが、校内でジェンダーレス女子と言われて女子から人気がある彼女らしい私服姿。 尚且つとても似合っていると感心する。 「まだ時間あるし、その辺ぶらぶらしようか 」 「そうだね! 私、タピオカ飲みたいなぁ 」 「いいね! でも並びそう 」 映画のチケットを買ってもまだ時間に余裕があったため、私たちは店内を周ることにした。 学校以外で、周さんと2人で会うなんて初めて。 部活で一緒に活動していた時とは空気感が違って感じて、とても緊張した。
/227ページ

最初のコメントを投稿しよう!

124人が本棚に入れています
本棚に追加