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声の主は、やり取りの一部始終を見ていた星名だった。
「自分のために作ってくれた物を、どうして人にあげれるの? 」
藤波は顔を曇らせると、那子の手からバッと紙袋を奪った。
それを、星名の前に突き出した。
「俺、甘いの苦手だから。 不味って食われるより、甘いの好きな奴に、上手いって食われた方が気分良いだろ。 欲しいなら、あんたが食えば? 」
吐き捨てるような言い方をして、藤波は到着した電車にさっと乗り込んでしまった。
「星名くん、なんか……巻き添えごめんね? それ、私が貰うよ 」
那子が紙袋を貰おうと手を伸ばすと、「僕が貰ってもいい?」と、星名はそれを持ち帰った。
耳に全神経を集中させ、三原さんの話を一部始終聴き終えた。
私は、愕然とした。
ショックだったのか、腹が立ったのか分からない。
シャープペンを持つ手が小刻みに震えて、頭の中は真っ白になった。
結局、藤波くんは食べてくれなかったってことだよね。
受け取ってもらえただけで、嬉しいって思ってたのに。
昨日の浮かれた私、馬鹿みたい。
ほとんど話したことがない人から貰っても、気持ち悪いだけだったんだ。
どうして、もっと早く気が付けなかったんだろう。
こんなことになるなら、あんな恐れ多いことをしなければ良かった。
この期に及んで、メッセージカードまで入れたことを後悔した。
あのカードを星名くんに見られたと思うと、もう海の底に沈んでしまいたい。
何度も溢れ出そうな涙を堪えながら、残りの授業を上の空で受けた。
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