episode.1 出会いは突然に

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声の主は、やり取りの一部始終を見ていた星名だった。 「自分のために作ってくれた物を、どうして人にあげれるの? 」 藤波は顔を曇らせると、那子の手からバッと紙袋を奪った。 それを、星名の前に突き出した。 「俺、甘いの苦手だから。 不味(まず)って食われるより、甘いの好きな奴に、上手いって食われた方が気分良いだろ。 欲しいなら、あんたが食えば? 」 吐き捨てるような言い方をして、藤波は到着した電車にさっと乗り込んでしまった。 「星名くん、なんか……巻き添えごめんね? それ、私が貰うよ 」 那子が紙袋を貰おうと手を伸ばすと、「僕が貰ってもいい?」と、星名はそれを持ち帰った。 耳に全神経を集中させ、三原さんの話を一部始終聴き終えた。 私は、愕然(がくぜん)とした。 ショックだったのか、腹が立ったのか分からない。 シャープペンを持つ手が小刻みに震えて、頭の中は真っ白になった。 結局、藤波くんは食べてくれなかったってことだよね。 受け取ってもらえただけで、嬉しいって思ってたのに。 昨日の浮かれた私、馬鹿みたい。 ほとんど話したことがない人から貰っても、気持ち悪いだけだったんだ。 どうして、もっと早く気が付けなかったんだろう。 こんなことになるなら、あんな恐れ多いことをしなければ良かった。 この期に及んで、メッセージカードまで入れたことを後悔した。 あのカードを星名くんに見られたと思うと、もう海の底に沈んでしまいたい。 何度も溢れ出そうな涙を(こら)えながら、残りの授業を上の空で受けた。
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