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星の瞬きが聞こえるような静寂とした空。
彼の瞳は切なそうにしていた。
「未来が見えるなんて気持ち悪いでしょ。 僕が怖い? 」
首を振って震える手を押さえる。
答えたいのに、ただ首を振るばかりで何も言えない。
喉に言葉が突っかかって声が出ない。
何かを思い出すような遠い目をして、彼は唇を動かす。
ーー中学3年の夏。
僕は何かに取り憑かれたように、ある人の絵を描いていた。
クラフトノートに、何枚も何十枚も角度を変えて同じ顔を描いた。
どうしてなのかは分からない。
ただ、脳裏に浮かぶ空想の人物に恋い焦がれていたのかもしれない。
それが数日、1週間も経つと、頭からその人の映像が色褪せていった。
ふと我に帰った時、何をしていたのかさえ分からなくなって、絵を見て気味が悪くなった。
没頭して描いていた自分が怖くなって、僕はそれを破り捨てた。
でも、最後の1枚だけは出来なかった。
僕の中から、彼女の存在を完全に消すことになるから。
何か意味があって描いていたはずなのに。
それから、僕は未来が見えるようになった。
親、友達、そして自分にこの先何が起こるのか。
だから、何となく思ったんだ。
ーーあぁ、あれは僕が見た未来の人だったんだって。
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