episode.9 夏の秘密

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星の瞬きが聞こえるような静寂とした空。 彼の瞳は切なそうにしていた。 「未来が見えるなんて気持ち悪いでしょ。 僕が怖い? 」 首を振って震える手を押さえる。 答えたいのに、ただ首を振るばかりで何も言えない。 喉に言葉が突っかかって声が出ない。 何かを思い出すような遠い目をして、彼は唇を動かす。 ーー中学3年の夏。 僕は何かに取り憑かれたように、ある人の絵を描いていた。 クラフトノートに、何枚も何十枚も角度を変えて同じ顔を描いた。 どうしてなのかは分からない。 ただ、脳裏に浮かぶ空想の人物に恋い焦がれていたのかもしれない。 それが数日、1週間も経つと、頭からその人の映像が色褪せていった。 ふと我に帰った時、何をしていたのかさえ分からなくなって、絵を見て気味が悪くなった。 没頭して描いていた自分が怖くなって、僕はそれを破り捨てた。 でも、最後の1枚だけは出来なかった。 僕の中から、彼女の存在を完全に消すことになるから。 何か意味があって描いていたはずなのに。 それから、僕は未来が見えるようになった。 親、友達、そして自分にこの先何が起こるのか。 だから、何となく思ったんだ。 ーーあぁ、あれは僕が見た未来の人だったんだって。
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