124人が本棚に入れています
本棚に追加
人がいない家庭科準備室へ入ると、星名くんは黙って中の鍵を閉めた。
「えっと、あのさ…… 」
言いづらそうにしている彼を見たら、なんだか急に申し訳なくなってしまった。
「……あの、昨日のクッキーですよね。 ありがとうございました 」
段々と小さくなる声。
気まずい顔をして言うと、星名くんは驚いたような表情を浮かべた。
「知ってたの? 」
「た、たまたま……風の噂で聞いちゃって 」
この場から、今にでも逃げ出したいくらい恥ずかしい。
出来るなら、透明人間になって消え去りたい。
林檎のように頬を真っ赤に染めながら、視線は徐々に落ちていった。
見覚えのある紙袋が、目の前に差し出された。
これ、どうして?
思わず顔を上げると、星名くんは申し訳なさそうに眉を下げた。
「これ、僕が貰ってもいいのかな 」
「え、えっと…… 」
そのままの包装を見て、私は複雑な気持ちになった。
開けられた形跡がなくて、小さな封筒に入ったメッセージカードが虚しさをより強調していた。
「貰ってもらえるなら、食べて下さい 」
捨てられなかっただけ、まだマシだよね。
そう言い聞かせながら、私は肩を落とした。
「持って帰ったんだけど、これには君の気持ちが詰まってると思ったら、急に開けられなくなって…… 」
紙袋を私の手に持たせると、星名くんはメッセージカードを取り出した。
空いている反対の手に、それをそっと握らせてくれた。
最初のコメントを投稿しよう!