124人が本棚に入れています
本棚に追加
あれから特に会話もなく、彼の隣と私の横に座っていた男子たちは2駅ほどで降車した。
彼は黙って外を眺めていて、その次の駅で降りて行った。
学年も名前も分からない。
あんな天使みたいな人が空高にいたなんて、知らなかった。
学年8クラスもあったら、知らない人の方が多いに決まってる。
知ったところで、自分とは関わることのない人だと分かっていた。
でも、今日は天使に会えて縁起のいい日だった。
降りる駅に着く頃には、そんな気持ちへと変わっていた。
翌朝の通勤・通学ラッシュ。
私と比茉里ちゃんは、ほどよく混み合う電車に揺られていた。
栗色の肩丈ショートヘアに幅の狭い二重。
女子の私から見ても、明るくなんでも器用にこなす理想の女の子。
雨粒がポツポツと窓ガラスに飛ぶ様を眺めながら、そこに映る男子生徒の姿を見ていた。
藤波宗汰。
長めの黒い前髪を斜めに分けて、切れ長の目を少し隠している。
背丈は170センチ前半で普通だけれど、唇の左に小さなホクロがあって、爽やかと言うよりは少し色気のある大人っぽい雰囲気だ。
1年の時に同じクラスになって、彼は少しの間、私の後ろの席に座っていた。
高校生になって、私が初めて言葉を交わした男子。
ただ、伝言を回すだけの会話だった。
とても緊張してドキドキしたことを、今でも鮮明に覚えている。
いつも気付くと目で追っていて、実は密かに、ずっと片思いだったりする。
〝憧れ〟と言った方が、しっくり来るかもしれない。
「結奈ちゃん、数学の宿題って答えどうなった? 私、今日当たるんだよね 」
「ちょっと待ってね。 私も合ってるか分からないんだけど 」
最初のコメントを投稿しよう!