episode.1 出会いは突然に

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あれから特に会話もなく、彼の隣と私の横に座っていた男子たちは2駅ほどで降車した。 彼は黙って外を眺めていて、その次の駅で降りて行った。 学年も名前も分からない。 あんな天使みたいな人が空高にいたなんて、知らなかった。 学年8クラスもあったら、知らない人の方が多いに決まってる。 知ったところで、自分とは関わることのない人だと分かっていた。 でも、今日は天使に会えて縁起のいい日だった。 降りる駅に着く頃には、そんな気持ちへと変わっていた。 翌朝の通勤・通学ラッシュ。 私と比茉里ちゃんは、ほどよく混み合う電車に揺られていた。 栗色の肩丈ショートヘアに幅の狭い二重。 女子の私から見ても、明るくなんでも器用にこなす理想の女の子。 雨粒がポツポツと窓ガラスに飛ぶ様を眺めながら、そこに映る男子生徒の姿を見ていた。 藤波(ふじなみ)宗汰(そうた)。 長めの黒い前髪を斜めに分けて、切れ長の目を少し隠している。 背丈は170センチ前半で普通だけれど、唇の左に小さなホクロがあって、爽やかと言うよりは少し色気のある大人っぽい雰囲気だ。 1年の時に同じクラスになって、彼は少しの間、私の後ろの席に座っていた。 高校生になって、私が初めて言葉を交わした男子。 ただ、伝言を回すだけの会話だった。 とても緊張してドキドキしたことを、今でも鮮明に覚えている。 いつも気付くと目で追っていて、実は密かに、ずっと片思いだったりする。 〝憧れ〟と言った方が、しっくり来るかもしれない。 「結奈ちゃん、数学の宿題って答えどうなった? 私、今日当たるんだよね 」 「ちょっと待ってね。 私も合ってるか分からないんだけど 」
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