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再び、2人きりの状況になった。
ここまで来ると、流石に故意的だと気付かれそうだ。
2人が去ったドアを見つめながら、湊くんは何かを思うように首を傾げた。
「樹が女の子に押されてる 」
クスッとする彼を見て、異常に乾いた喉を潤すように、私はミックスジュースを一口飲んだ。
「湊くん、楽しそうだね 」
「あんな余裕なさそうな樹、見たことないから 」
確かにそうだ。
女の子なら誰でも大好きないつもの雰囲気は、今日の下津くんからは一切感じられない。
「家のこと知っても、普通に接してくれたし、心許してるのかな 」
そう呟いた彼の横顔が、胸に焼き付いて離れなかった。
そんな遠い目をして、湊くんは今何を見ているんだろう。
「昔、何かあったの? 」
自分の声にハッとして、慌てて口元に手を当てた。
その時には既に、彼は黙ってこちらを見ていた。
思わず出てしまった今の言葉は、無神経で彼の心に土足で入り込んでしまったかもしれない。
「ごめんなさい! 嫌なら答えなくていいので…… 」
「有名企業の息子ってだけで、その親のフィルム越しにしか見てもらえないことがほとんどだよ。 どこにいても、樹には〝下津グループ〟って言う言葉が付いて回る 」
彼は、そっと私に目線を向けた。
瞳孔が大きくて、その奥に瑠璃色がある。
「中学の時は、お金を持ってるって思われて、色目を使われたり、利用しようって下心を持って近づいて来る人も多かったから。 心から信頼出来る友達って、いたのか分からないな 」
「そんな人がいるんだね 」
あぁ、やっと分かった。
彼の瞳が、ガラス玉のように綺麗な瑠璃色を、している理由。
孤独と寂しさの色だ。
ずっとずっと、奥底に閉じ込めている彼の記憶。
それが、何かは分からないけれど。
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