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「昨日の敵は、今日の友って言うじゃん? 瀬崎沙絢なら交友関係も広そうだし、星名くんのことを色々知ってるかもしれないじゃん 」
やや押され気味に、彼女の後に付いて行く。
静かな美術室は、まだ鍵が掛けられていて人の気配はなかった。
準備室のドアが、中途半端に空いている。
普段は開いていなくて、入れない場所だ。
何気なく覗いてみると、そこには様々な絵や創作された物が置かれていた。
何かに惹きつけられるように、私たちは中へと足を踏み入れた。
多くの作品の中から、私の目を釘付けにした物。
それは、色鮮やかで美しく、すぐに湊くんが描いた物だと分かった。
彼の絵はとても華やかで、どこか寂しげに見える。
「これ、誰の絵だろうね。 すごい迫力…… 」
「沙絢あのさ、明日…… 」
比茉里ちゃんの声に重なるように、準備室の外から誰かの声が聞こえて来た。
「藤波くん、ちょっといい? 」
瀬崎さんの話し声がして、私たちは目を合わせる。
ドアが開く気配を感じて、私たちは咄嗟に目の前にある作業台の下に隠れた。
勝手に入ってしまった自分を後悔する。
「お願いだから、沙絢に話し掛けないで! 」
「まだそんな事言ってんのかよ 」
「散々、嫌だって言ってるよね! 」
口を押さえて、息を殺しながら身を潜める。
藤波くんと瀬崎さんだ。
これは、何やら只事ではない雰囲気。
確か、彼は瀬崎さんの事が好きだという噂があった。
背中を丸め、比茉里ちゃんと密着する。
聞いてはいけないと思いながら、私たちは小動物のように耳を澄ましていた。
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