125人が本棚に入れています
本棚に追加
/227ページ
結果発表が終わり、私たちは実技室を後にした。
会場の扉前でみんなと別れ、なんとなく湊くんのココアトーク画面を開く。
既読は付いていたが、返事はなかった。
お姉ちゃんに用件を打つと、私は階段を降りて正面入り口へ向かった。
「結奈ちゃん 」
門を出た時、後方から聞き覚えのある心地良い声が聞こえて、私は足を止めた。
そんなはずはないと思いながら、胸をドキドキとさせながら振り返る。
目の前に、私服姿の湊くんが立っていた。
七部に捲られた白シャツに、細身のデニムズボン。
膝をついて、拝みたいくらいに神々しい。
「なんでここに、星……えっと、湊くんが?! 」
ここがコンテスト会場だと、湊くんは知らないはずだ。
それなのに、どうして私には彼の姿が見えているんだろう。
幻想あるいは幻覚か、脳は正常に作動していなかった。
「ちょうど、こっち方面に用事で来てて。 たまたま通りかかったら、『スイーツコンテスト会場』って看板出てたから、もしかしたらと思って 」
あぁ、神様。
こんなドラマのような偶然があって、良いのでしょうか。
感激のあまり、言葉が出ない。
「お疲れさま。 ちょうど今〝ココア〟見たから返事出来てなくて、ごめんね。 ケーキ、すごく可愛かった 」
湊くんは、白い歯を見せて柔かな目をした。
胸の中がキュンと狭くなって、ギュッと苦しくなる。
好きという感情が、溢れ出る瞬間を知った。
会場から出てきた他校の生徒たちが、私たちを横目でチラチラと見ていた。
その中には、優勝した高校の生徒もいた。
「……コンテスト、ダメでした。 グランプリは無理でも、もしかしたら特別賞ならって……ちょっと期待したんだけど、入賞は出来なかった 」
目の前が、霞んで見えた。
一瞬、暗い空気が流れて、ふと脳裏に下津くんの言葉が蘇る。
ーー暗い顔してる子と一緒にいたいかって聞かれたら、俺ならノーだね。 面倒くさいから。
こんな辛気臭い顔をしてたらいけない。
ジンクス関係なく、嫌われてしまうかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!