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下津くんも、苦労していたんだ。
有名な人の家族って、私たちが思うより、すごく大変なのかもしれない。
「でも、下津くんは幸せ者だね 」
「どうしてそう思うの? 」
湊くんが不思議そうに首を傾げると、私は真っ直ぐに彼を見つめた。
「だって、湊くんに出会えたんだもん。 友達思いで優しくて、こんな天使みたいな…… 」
言いかけた言葉を飲み込んで、私は口を噤んだ。
また、無意識にやらかしてしまった。
穴を掘れるならば、この場で穴に入りたい。
「ありがとう。 結奈ちゃんにそう言ってもらえて、嬉しいよ 」
笑顔が、少しぎこちなく見えた。
ーーみんなが知らない、別の顔があるかもね。
なぜか今、比茉里ちゃんの言葉が脳裏に蘇り、私の胸の音を煽った。
ドアが開いて、ようやくケーキを持った2人が戻ってきた。
白い長方形のお洒落な皿に、チョコレート・モンブラン・苺タルト・チーズケーキが色取り取りに並んでいる。
「お腹減ったし、みんなご飯食べよー♪ あと、この弁当は下津くんの奢りなので 」
楽しそうな比茉里ちゃんの声を横に、私はどこかおぼつかない気持ちだった。
胸騒ぎとは、こうゆうことを言うのかもしれない。
「奢りって、これ全部? ちゃんと私も払うよ 」
その気配を掻き消そうと、私は慌てて鞄から財布を取り出そうとする。
それを、湊くんの手が阻止する。
私の手の上に、彼の手がそっと重ねられた。
ピクッと肩が跳ね、頭の中が真っ白になる。
「僕も出すから、結奈ちゃん達はいいよ。 樹も、女の子から貰うつもりないと思うから 」
「私も、払うって言ったんだけどね。 下津くんが、いいって一点張りだったから 」
「じゃあ、お言葉に甘えてありがとう 」
彼の指が離れた後も、まだ温もりが残っていた。
ギュッと手のひらで覆い、私は視線を前へ向けた。
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