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「じゃあな。どっかにバカンスにでも行って来い」
「そうですね」
バカンスかー……バカンスね。
夏休みは、休みだ。どこに行って何をするかは、自分で決めてもいいんだよね。
たとえば、旅費の代わりにクーラー買って、付けて貰っちゃうとか。そうすれば、今よりちょっと涼しい夏の出来上がり。
「……先生は、私のひんやりバカンスに賛成ですか?」
「なんで俺が反対するんだよ。行きたい所に行って来い」
「ありがとうございます。行きたい所に行かせて貰います」
まず、電気屋さんだな。すぐに工事をしてくれるところ。
どうせ先生はここに居るんだし、居る時は鍵はいつも開いてる。
納戸にクーラーつけない理由は、使わないから勿体無いだろって前言ってたから、つけちゃ駄目って事は無いはず。
「そりゃ良かったな。涼しくなるまで、大人しくしてろ」
先生がうっかり私に触ろうとして、手を引っ込めた。
……撫でかけて止めるとか、優しくない。
私が漆に嫌われてるから、触っちゃったらかぶれちゃうかもしれないからって分かって居ても、心のどこかがひやっとする。
「じゃあな。また、涼しくなったらな」
「はい。涼しくなったら……また明日。」
「……は?」
外から車の音がしたから、頭を下げてさっさと玄関を後にした。
また明日。それか明後日。……もしかしたら、明々後日?
電気屋さんの都合がついて、涼しくなったら、また来ます。
私の師匠は、優しくない。
皮肉屋で意地悪で横暴で、時々、ひんやり冷たい人だ。
【終】
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