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わたしの師匠は、優しくない。
「あづーい……」
暑い。
もう夏も終わりだろうと思うのに、暑い。
私は今日、先生の家の納戸になってる狭めの部屋で、先生が貯めに貯めた資料を片付けている。
「そりゃ、そんな格好じゃ暑いだろ……休めよ、お前」
そんな格好、って。
この前、「お前は夏場はフル装備じゃねえとこの家の敷居は跨がせ無い」って鬼みたいなこと言ったの、先生じゃん……。
「まだ休みません。せめて、この棚終わらせないと」
今日の私は、この家の敷居を跨いでいる。つまり、先生の言うフル装備だ。
フル装備っていうのは、漆かぶれを防ぐための服装と小物一式のこと。
長袖長ズボンの上に長袖のスモックタイプのエプロン、眼鏡にマスク。頭と襟元には、今日は日本手拭いを巻いてる。
「あのなあ。『休め』ってのは、『来るな』って意味だぞ。もう帰れ、片付けは良いから」
「帰りません!帰りませんんんんんんん……だいたいここは作業部屋じゃないんだからぁ、漆成分そんな来てないんじゃないですかぁあああ……」
ここは納戸だ。日頃漆を使わない。そんなとこまでこんなに厳重な格好させなくっても良くない?それに、作業場にはクーラーが有るけど、ここには無い。暑い暑い暑い。暑さ三倍……じゃなくて三乗……
「ううう……帰りたい……」
「あー、帰れ帰れ。だから暑い時期は休めって言ってんだろうが」
「……横暴っ……」
「あ?俺がか?」
ぐったり呟くと、先生はムッとした。
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