わたしの師匠は、優しくない。

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「せんせーじゃないです、漆ですぅ、漆っ……漆の、横暴っ……」 「……おい、頭大丈夫か?……ちょっと待っとけ」 「頭だいじょぶかって、ひどい……」    抗議した時はもう、先生は居なかった。  座り込んでた床に倒れて、寝転がる。  マスクと眼鏡を外しちゃう。暑すぎて汗か涙か分からないものが出てきたから、頭の手拭いも外して、顔を拭く。  暑いとろくに仕事が出来ない弟子なんか、弟子じゃない……弟子失格……。  銀鼠の地に凛々しい眉の雪だるまがごろごろ描いてある手拭いで、目を拭う。への字眉の雪だるまと目が合って、お揃いの情けない眉になる。 「おら、何寝てんだ。起きろ」  先生が、戻ってきた。寝転がったまま見上げると、大きな物を持っている。驚いて、思わずぴょんと起き上がった。 「……わ、扇風機……!」 「こんなもんでも、無いよりマシだろ」  先生がどこかから持ってきた扇風機は、どことなく古びていた。  風が吹いたら金粉や銀粉が飛んじゃうから、作業場ではクーラーだって弱風で天井向きにしかしない。扇風機なんて、見たことが無い。きっと使ってなかったやつだ。 「……ふわぁあー……すずしぃーぃいいいー……」  使ってなかったっぽい扇風機は、ちゃんと動いた。涼しいのと、扇風機の前で声を出すと震えるのが面白いのとで、落ちてた気分が少しだけ上がる。
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