BANA

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BANA

 太一の体に異変が起きたのは、八月半ばの熱帯夜だった。 「壮介くん、どうしよう」 「ん? どしたの?」 「何か、僕の、バナナになっちゃったみたい……」  太一は恥ずかしそうにもじもじしながら、トランクスの股間を指差した。 「えっ……バナナ?」  バナナに例えるなんて、これはもしかして、新手のお誘いだろうか。同棲して半年、ちょっと刺激的なこともしてみたいのかもしれない。カワイイ奴だ。  それならいきなり咥えてやろうとニヤニヤしながら、壮介は太一の誘うままトランクスのウエストに手をかけた。 「ん?」  ウエストを開けたとたん、甘い匂いがした。熟したバナナに良く似ている。もしかしてこの中に本物のバナナがあるのか。どこに隠しているんだ、何のために――驚きながらも未知の遊びを妄想し、つい顔がにやけてしまう。そんな壮介を誘うように、太一は悩ましく腰をくねらせながらトランクスを脱いだ。 「見て、壮介……僕の」 「……え?」  晒け出された太一の股間には、本当にバナナがそそり立っていた。  太く長い。艶々した鮮やかな表面にはシュガースポットが表れ、まさに食べ頃だと見せつけてくる。 「うっそ、え、ええっ?」 「食べて」 「え、食べてって、何これどうなってんの?」  そっと掴むと充血したように熱い。血が通っているように思えたが、見た目は完全にバナナで、しかも皮膚とぴったり繋がっている。  不思議だ。超精巧な特殊メイクだろうか。 「そんなびっくりしないでよ、ふつーに、皮剥いて食べて」 「は? え?」 「ほら、こんなふうに……」  太一が自らのバナナの先をつまみ、ぐっと力を入れる。すると本物のように皮の繊維が弾け、ほんの少しだけめくれた。 「うわ、痛くないの?」 「うん、痛くない。むしろ……」  キモチイイの、と溢した太一がやたら妖艶で、壮介は唾を飲み込んだ。  これを全部剥いたら、太一はどうなるんだろう。  発情したメス猫のようにいやらしく乱れるのを妄想し、熱い期待が壮介自身を昂まらせる。張り詰める心地良さを感じながら、壮介は割けたバナナの皮を摘まんだ。 「あっ、いい、壮介お願い、一気に……」 「いいの?」 「いいの、そうして欲しいの、早くぅ」  我慢できないと催促されて、壮介は思いっきり剥いた。さあ、パンパンに膨れた太一のモノとご対面だ――そうにやけた壮介の前に現れたのは、ゴツゴツした緑の塊だった。 「な、何これ!」  異形のモノから慌てて離れようとしたが、それより先に太一の脚が首に巻き付き、ぐっと引き寄せられる。鼻先に生臭い緑色がくっついた矢先、それがぱっくり割れた。瞬間見えたのは、真っ赤な口内と銀色に光るノコギリ歯だった。 「う、うわ、ぎゃあああああっ!」  額から鼻までかじり取られるような、強烈な痛みに襲われた。逃げようとするが、太一の脚に首をホールドされて叶わない。  食われる、緑色の化け物に顔を食われる――パニックを起こした壮介は千切れんばかりに手足を振り回したが、そのうちに頭蓋ごと齧られて動かなくなった。  翌日、無断欠勤した壮介を心配した同僚が尋ねてきて、事件が発覚した。  壮介の遺体の頭は半分齧り取られたようになくなっており、太一の姿はどこにもなかった。即座に通報し捜査が始まったが、一週間を過ぎても太一の行方は杳として掴めなかった。
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