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――折から夜のふけたのも知らず、(あぶら)()のかすかな光の下で、御経(おんきやう)読誦(どくじゆ)し奉つて居つたが、(たちまち)えならぬ香風が吹き渡つて、雪にも(まが)はうず桜の花が紛々と(ひるがへ)(いだ)いたと思へば、いづくよりともなく一人の傾城(けいせい)が、鼈甲(べつかふ)(くし)(かうがい)を円光の如くさしないて、地獄絵を()うた(うちかけ)(もすそ)を長々とひきはえながら、天女のやうな(こび)()らして、夢かとばかり眼の前へ現れた。 ――芥川龍之介「きりしとほろ上人伝」
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