6人が本棚に入れています
本棚に追加
また男子だ。男子がダメだ。全然真面目にやってくれない。
合唱コンクールまで、あと二週間をきったっていうのに……ちゃんと歌詞とか、覚えているんだろうか。
「覚えてねえよ。何言ってるか分かんねえし」
岸くんの言葉に、みんながうなずいた。指揮の高井さんが一生懸命、説明する。
「これは、ジプシーの歌なんです……。『慣れし故郷を放たれて』っていうのは、つまり」
「ハナタレて? 鼻、たらしてんの?」
岸くんが笑うと、みんなが笑った。
「みんな教室に戻っちゃったよ」
わたしはピアノのいすから降りると、高井さんに声をかけた。高井さんがこっそり泣いていることに気づいたからだ。
正直、泣くほどのことかなあ、と思った。合唱コンクールなんて、たいした行事じゃないって気もする。
高井さんが、顔をあげた。涙でいっぱいの高井さんの目を見て、あー、まつげ長くていいなーと、関係ないことを思った。
「小峰さんにだけは言う。私ね。実は転校するんだ」
「えっ」
思いがけない言葉に、息を飲んだ。
「だから、優勝したかったんだ。C組みんなでできることって、多分もうないと思うから……」
うつむきながら、消え入りそうな声で言う。
最初のコメントを投稿しよう!