第2章 Critical contact

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第2章 Critical contact

1  Mail to Rebellion:『こちらリンクス8、上位バイオロイドを発見した。抹殺対象です。』・・・ジョン・レイエスはリベリオン情報部の岸田から墜落宇宙船の積み荷の上位バイオロイドが見つかったら知らせるように命令されている。しかしメッセージを端末に打ち込んだところで彼には心の葛藤が待っていた。そもそもジョンがリベリオンに所属しているのはレンやコウを含めた日本の平穏と日常を守りたいからだ。エイダのことをリベリオンに報告すれば大切な仲間との関係が壊れる、日常を破壊して友人を巻き込んだ殺し合いが待っていることは容易に想像できた。だからメッセージの送信ボタンを押せない。組織も仲間でレンも仲間だ、どちらか一方を選べなんて残酷だ。ジョンは己が何のために存在すべきか、社会でどういうポジションでかじ取りをしていくのか、自己の存在理由の本質に考えを巡らせていた。 「どうしたジョン、冬なのに汗をかいてるぞ。」  隣席のコウが心配そうに呼び掛けた。ジョンは少し戸惑ったがメッセージを保留にして端末をポケットに入れた。レンを選んだわけでもリベリオンを選んだわけでもない、自然とこの葛藤を保留にしたのだ。ジョンの席からはレンが斜め右前方に見える。コウの呼びかけはジョンの耳に入らない。レンの日常を破壊するのが容易なポジションに自分がいることに気づかされ、己の立場を呪った。これは地獄の始まりだ。  エイダが自己紹介を終えるとジョンの横を通ってジョンの間後ろの席に着座した。上位バイオロイドが殺人的手段で社会に浸透してきていることはリベリオンに所属する者ならば常識だ。バイオロイドの存在が社会に公になれば他人不信の連鎖が繋がり、最悪内戦状態になる。バイオロイドが社会を乗っ取る手段は実在する人物の姿も人柄も完全にコピーして本人を隠密に殺害した後に何事もなくその故人のポジションを手に入れ社会に浸透していくという恐ろしい手口だ。そして通常のバイオロイドとは違う上位バイオロイドはそれ自体が動く超高度AIであり、社会システムの改ざんや戸籍の偽造発行などを駆使して全く新しい個人として社会に出現するといった点が異なる。通常のバイオロイドが社会の乗っ取りを担うとしたら、上位バイオロイドはそれを邪魔する人間勢力の把握と排除を担っているのではないかとリベリオン内部で推測されている。その推測が本当だとしたら、レンの周辺でバイオロイドに置き換わった人物もどきがいる事が想定され、上位バイオロイドがその環境の補強にやってくることは自然の流れと受け取れる。  つまり、ジョンの頭の中ではリベリオン勢力の把握と排除、もっと言えばジョン・レイエス殺害という結論が待っていることが想像される。この事態をジョンが保留し続ければ、ジョン自身がエイダによって抹殺される運命にあることは想像に難くない。
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