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2 その時の話
当時まだ1年生だった私は体育の授業中、派手に転んだ。
水道で水を飲んで戻ろうとしたら足を滑らせて、アスファルトと土の間に私は倒れた。
固いアスファルトに片膝を打ち付けて痛くて痛くて涙が出た。もう片膝は土で削れて血が滲んだ。
クラスメイトも友達も駆け寄ってきて、心配を掛けまいと私は明るく振る舞った。転んだ様子が面白かったらしく、皆笑いを堪えていたから、敢えて私は笑った。大丈夫だって。
本当は泣きたいくらい痛かったのに。
私だって私の転んだ格好を見ていたら笑ってしまうだろうし、人は、人の痛みなんて分からないように出来ているからしょうがない。
だから私が痛がらないようにすれば、皆は痛くないと分かって安心出来る。
私は“平気だけど一応”一人で保健室に行った。風香が付き添おうとしてくれたけどやんわり断った。
校舎に入って、誰もいない廊下で私は一人きりで呻いた。痛い。浮いて来る涙をそのまま流した。
私は怪我を心配して欲しいんじゃなかった。ただ「痛いよね」って言って欲しかった。分かって欲しかった。なんだか痛がっている自分も情けなくて余計に涙が出た。
頭の中もぐちゃぐちゃして蹲って動けなくなっていた。
そしたら、絆創膏が目の前に現れた。
正確に言うと、絆創膏を私に差し出してくれた人がいた。
人がいたのにも気付かなかった私は、ぐちゃぐちゃのままの顔を持ち上げてその人物を見た。彼はびっくりしていた。
ぼさぼさした頭を掻いて、困り顔だった。
私はそれを見て、急に意識がはっきりした。頑張って立ち上がるとさっきのように振る舞った。これは恥ずかしさを隠す為でもあった。
「……いやあ、びっくりしたよ! さっき水道のとこで転んじゃってね! 両膝怪我しちゃったの!一度に両膝怪我するとか私、運悪すぎだよね!えへへ!」
沢山言葉が浮かんできて思いつくままに喋った。そうすれば彼も釣られて笑ってくれて、呆れながら絆創膏をくれるんだろう。そう思っていた。
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