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でも違った。
彼は顔を顰めて深刻そうに言った。
「うっわ。痛そう」
だから私はぽかんとしてつい言い返した。
「全然?」
痛いと思うから痛いんだよ。
私はじんじんする膝を我慢して廊下を踏み鳴らした。
「ほらね。平気。見た目の割に大したことないの」
「いやいや。どう見たって痛いだろ」
「むっ。それは私が決める事でしょ」
「へえー。俺だったら絶対泣くね。そんなん無理。あー無理無理。見てたら痛くなってきた」
彼は顰めっ面のまま自分の膝をさすった。何で貴方が痛がるの? おかしいでしょ?
私が混乱していると、彼はふっと笑って言った。
「俺今日遅刻したんだよ。お前を助けたからってのを理由にしていい?」
「ええ! そもそも私まだ助けてもらってないし」
「お前の痛いのを俺が引き受けただろうが」
「何それ! 全然引き受けてないし! 普通に痛いし」
「やっぱ痛いんじゃん」
「あっ……う、うう」
つい口が滑ってしまった。絶対わざと、言わせようとしたに違いない。でも、私の痛みは本当に、消えたみたいに和らいでいた。
彼はまた絆創膏を差し出してきた。
「ほら絆創膏やるから。保健室まで送るか?」
「いい。行ける。なんか本当に大丈夫になってきたし」
「あ、そ。じゃあな」
去り際に微笑んだ顔にどきっとした。
怠そうに脚を持ち上げて歩く彼が見えなくなるまで私はずっと動けなかった。
彼の名前は丹生正樹。その瞬間から私が好きになった人。私の痛みを、撫でるようにして全部攫って行った人。
***
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