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「けじめかな」
「けじめ?」
私は首を傾げた。犬井くんはジュースのストローを弄っている。
「あの子のことばっか考えてるんだよ俺。脈も無いのに。だから潔く振られて、もう考えるの止めようって思って」
「ええ? 別に良いじゃない考えるくらい」
「俺は良いけど、あの子が良くないよ。きっと嫌がる」
「何言ってんの?」
つい自分と重ねて苛ついてしまった。考えるだけでも駄目? じゃあ私は、丹生くんにめちゃくちゃ嫌がられてるってこと?
そんなわけないと否定したい気持ちが大きくて、犬井くんを庇う振りをして私は、自分を守ろうとした。思わず声が刺々しくなってしまう。
「嫌がるわけないよ。だって本人には分からないじゃん」
「でも気付くよ。分かるんだよ。相手が自分をどう思ってるかって、言わなくても分かるものだろ。全部じゃなくても」
「そんな、そんなの、でも……」
あれ? 言い返せない。
私の、“好き”って気持ちも、もしかして嫌がられていたの?
不安になって、私は必死に言葉を探したけど見つからない。
すると犬井くんははっとして、慌てて早口で喋りだした。
「俺ほら、俺、こんなだからほら、暗いし、だからほら! な? 大丈夫だよ!」
私は無言で犬井くんを見た。何かを訴えようと必死に手を振り回している。
そうやって相変わらず脈絡の掴めない話をひとしきりした後、犬井くんは目を泳がせながら私の肩を掴んだ。
「丹生はすっげえ鈍いから大丈夫! 気付いてないし何も知らないし、あの、安川は平気!」
「ふ、わ、わかった。何かよく分からないけど励ましてくれてるのは分かった。ありがと」
私が笑うと犬井くんも笑った。
なんとなく分かった気がした。犬井くんは本当に、物凄く自分に自信が無いからそういう風に思いこんじゃうんだろう。実際はきっと違う。多分。
犬井くんの恋路に協力するからには、とことんやりたいと思った。まだ出会って間もないけれど犬井くんの良いところはいくつも知ってる。例えば、今みたいに汗を流しながら笑わせてくれるところ。
私は改めて決意を固くし、犬井くんに向かって握り拳を作ってみせた。私のこの力を犬井くんに注ぐつもりで。
「私もできるだけ手伝うし、もうちょっと頑張ってみようよ犬井くん」
「う、で、でもさ、絶対無理だ」
犬井くんはすっかり萎れてしまった。私は喝を入れる。
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