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昼食の時間にもなるとあんまりお腹が空かない。食べてはいけない時間に一番空腹を感じるものだ。
とは言っても、食べ物を前にすると思い出したように胃が催促し始めた。分かってるって。
私は風香と机を向かい合わせて弁当を広げた。思春期の空腹には昨晩の残り物でもウェルカムだ。
いつも通り風香と雑談を交わしていると、クラスメイトの志田明華こと、メイちゃんがそこに割り込んできた。
私がメイちゃんと呼んでいる彼女は、いつも明るくてクラスのムードメーカー的存在だ。セミロングの髪がいつもさらさらで可愛い。
パッションフルーツみたいに少女時代を目一杯満喫している彼女には、当然付き合っている彼氏がいる。充実した青春を送る女子高生だ。私とは天と地の差ほどある。
メイちゃんはいつも他のグループでご飯を食べているけれど、時々ふっと混じってきて私達と会話をすることもよくある。
私も風香も恋愛経験ゼロなので、彼女の話は新鮮で刺激的だ。
雑談を交わす合間に、私はこれ幸いとばかりにアドバイスを求めてみた。
「メイちゃん、あのね、告白するタイミングっていつなのかな」
「えっついに!? ついに告るの?」
メイちゃんが弁当をひっくり返す勢いで迫って来た。私は慌てて首を振る。
「はっ! えっ! ちが、違う、私じゃないんだけど」
「ああ例の奴」
「そう。例の奴」
私は風香の言葉に頷いた。例の奴。犬井くんだ。メイちゃんは一人で首を傾げている。
「例の奴って何? 風香知ってるなら教えてよ」
「駄目」
「なーんだ、丹生にアタックするんじゃないのか」
「声! 大きいから! ホントに!」
「優衣の方がでかいよ」
風香に指摘され私は慌てて机に突っ伏した。
風香には事情を説明済みだ。私と犬井くんの関係を知っている。一応協力してくれるようだったので心強い。
同様にメイちゃんにも説明できればいいのだが、これ以上言いふらすのは良くないと判断して止めた。
私は犬井くんの名前を出さないよう「私じゃないんだけど友達がね」と濁して言った。
メイちゃんは良い子なので、私が言いたくないのを察してくれたらしく深く突っ込んでは来なかった。私も風香も彼女のこういうところが好きだ。
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