1 始まり

3/8
前へ
/135ページ
次へ
 でも、丹生くんじゃない人に今から告白されてしまったら私はどうしたらいいんだろう。考えたら頭が熱くなった。私の友達には彼氏がいる子も多い。しかし私には、何だか現実味のない話だと思った。漫画や映画で見るような話。  それに私は彼氏が欲しいわけじゃない。丹生くんは好きだけど、何か話せるチャンスがあればいいなあ、というくらいのほんわかした感情でしかない。  でももしも、誰かにアタックされたら揺らいでしまうかもしれない。絶対に断ると言い切る自信が無かった。意志が弱いのかもしれない。自分で自分が心配だ。  この学校の体育館裏は本当にただの建物の裏で、正直なところ告白に向いた場所では無い。決してない。女子を呼び出すなんて以ての外だ。  張り巡らされた蜘蛛の巣に伸び放題の雑草。年中日陰で黴臭い。校内清掃の時も暗黙の了解で掃除を免除されている。そもそもただの建物の隙間だから何かに使うこと自体がおかしいのだ。  私はぼんやりしたまま辿り着いてしまった体育館の裏に回る。体育館と、部活棟の間の隙間がいわゆる体育館裏だ。別名、部活棟裏とも呼ぶ。  埃っぽい空気が漂ってきて私は顔を顰めた。若々しく心地良い筈の春風でもここを通ると一気に歳を取るようだ。じめっとした空気が私を包む。  呼吸をするのも躊躇われるので私は息を止めながらゆっくり足を運んだ。  薄暗い体育館裏には僅かに日が差していたのでかろうじて周りが見えた。人が居るのも見える。  どう見ても丹生くんではない。期待してはいなかったけど何故かがっかりした。  相手も私に気付いたようで、少しずつ近づいて来た。私も互いの顔が見える距離まで歩く。  砂利と草と土とをジャリジャリ踏みながら歩み寄ると、唯一差し込む日光を挟んで二人向かい合う。
/135ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加