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私の返事を聞いているのかいないのか、彼は目を泳がせながら必死に言葉を繋ごうとしている。
「なんと、いうか、その。俺が、悪くて、貴方は悪くないんで……それで」
それで、の後が続かない。静かになってしまった。私はとりあえず続きを待つ。しかし、何かごにょごにょと呟くばかりで何が言いたいのかいまいちよく分からない。
更に、補足のつもりなのか身振り手振りまで加え始めた。しかし「ええと」だの「すみません」を繰り返してばかりで全く要領を得ない。彼はパニックになっているようだった。これではいつまで経っても話が進まない。
私は彼の肩を軽く叩いて、落ち着かせる為にもはっきり言った。
「落ち着いて。ゆっくりでいいよ。私待ってるから。ちゃんと聞くから」
彼は私の顔をじっと見て、涙目で頷いた。そして俯いて黙り込んだ。
なんだか放っておけない子だ。私は一人っ子だから分からないけれど、弟ってこんな感じかなと思った。私の緊張が解けていく。いきなり振られた(?)こともどうでもよくなっていた。
弟みたいな彼は、自分の制服の裾を握って深呼吸すると、ゆっくり喋り出した。落ち着きを取り戻したのか声もしっかりしている。
「俺、手紙を入れる場所を間違えたみたいで。ごめんなさい」
それを聞いてピンときた。
「そっか。本当に呼び出したかったのは私じゃなかったんだね」
「そうです。本当にごめんなさい。何かお詫びでもします」
「要らない要らない。それより呼び出したかった子って誰? 私の知ってる子だったら呼んでこようか」
乗りかかった船というやつだ。私はクラスメイトの顔をいくつも思い出していた。しかし彼は首を振った。
「い、いいです! そこまでしてもらうわけには」
「でもさ、また間違えるかもしれないでしょ」
図星を突かれたのか彼は言葉に詰まった。なんとか言い返そうとしていたけれど、結局口を閉じてしまう。
そうして彼は散々逡巡していたが、やがて諦め、半分自棄になった様子で頷いた。
「そう、ですね。また同じことをしたらさすがに立ち直れない」
「今から呼んでくる? 居ないかもしれないけど」
「いえ、明日以降で。今日はもう無理です」
「うん、そうだね。それがいいと思う。……私は安川優衣。初めましてだよね? ちなみに2年4組」
「俺は2年3組の犬井悟……」
「えっ同い年? なんとなく後輩かと思ってた」
驚いた。弟のようだったので完全に年下だと勘違いしていた。
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