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ここで私は気付いた。私は、協力という体で、犬井くんの想い人の名前を無理矢理に聞き出そうとしている。そんな気は無いのに、そう見えてしまった。
これは良くないと思い、すかさずフォローしようとしたけれど、それよりも犬井くんの決心の方が早かった。
「安川が良ければ手伝って欲しい。俺の、好きな人は、村永さんです……」
段々小さく頼りなくなる声。それでもしっかり私の耳に届いた。犬井くんは地面を見詰めて、恥ずかしさを堪えている。
村永美羽。私と同じクラスの子だけど、挨拶くらいしか交わしたことがない。目がぱっちり二重の可愛い子だ。教室で化粧をして先生によく怒られているのでよく覚えている。
彼女の靴箱は私の一個上にある。犬井くんは惜しいケアレスミスをしたみたい。テストで解答欄を間違えちゃうタイプだ。私もよくやるから人のことは言えない。
私は犬井くんの勇気を称えるようにわざと大袈裟な反応をした。そうでもしないと犬井くんは恥ずかしさで縮んで消えちゃいそうだったのだ。
「あー! 村永さんね! 目が大きくて髪の毛2つに縛ってる子でしょ! あーあー分かる! 可愛いよね分かる!私の一個上の靴箱だし、間違えてもしょうがないよ」
「だ、だよね! しょうがない!」
犬井くんはほっとした風に頷いた。私もほっとした気持ちになる。そして覚悟を決めた。
「ばっちり覚えた。ありがとう教えてくれて。じゃあ私の好きな人も言うね」
「は、え? 別にいいよ。言う必要ない」
犬井くんは素でそう言ってくれた。気を使ってくれているみたいだ。それは有り難いけど、一方的に私だけ知っているのは居心地が良くない。
それに、私の好きな人は偶然にも犬井くんと同じクラスなのだ。贅沢は言わないしあまり多くは望まないけど、それでも、ちょっとでも可能性があるなら諦めたくなかった。ほんの少し、話が出来ればそれでいい。
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