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もちろんこっちは後回しだし、それこそ無理なお願いなのは分かっている。だから彼に背負わせ過ぎないようになるべく軽く言った。
「私は決めたの。犬井くんが言ったら私も言うって決めた。だって不公平だし。で、出来れば、私の方も協力して欲しい」
「それが本音じゃ……。ま、いいよ。俺の知ってる奴だったら」
犬井くんは悪戯っぽく笑って頷いてくれた。
「多分知ってるよ。犬井くんと同じクラスだから」
「へぇー。誰?」
「い、言うよ。いくよ。言うよ。に、丹生正樹くんです!」
緊張する前に! と勢いのままに早口で言ったけれど、早口過ぎて聞き取れなかったんじゃないかと不安になった。
私の好きな人。2年3組の丹生正樹くん。
本人に言ったわけじゃないのに、どんどん恥ずかしくなってきてしまった。顔が火照る。名前を言うだけでこんなに照れるとは思わなかった。
とにかく恥ずかしくて、居たたまれなくて、つま先で砂利をぐりぐり押した。
何か言って欲しいのに、犬井くんは黙ったままだった。どうして何も言わないの?
恐る恐る顔を覗き見ると、彼は何とも言えない表情をしていた。私は混乱した。
呆然としたような諦めたような、当たり前に起こった事に対して何も出来ずにただ見ているような表情。
彼にとって良くない部分に触れてしまっただろうかと焦った。そんなつもりはなかったのに。
「い、犬井くんどうしたの。大丈夫? 聞こえた?」
「ああ。大丈夫。うん。そうか、丹生か」
「知ってる?」
「知ってるも何も。俺の親友だよ」
そう言った犬井くんの声は、卑屈に聞こえた。そして彼は優しく笑う。
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