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拓真が高校最後の冬に挑む頃、圭一郎と穂高の二枚看板は無事、ドラフトで指名された。
フットボール部はこれからが本番だったので、学校を上げてのお祭り騒ぎはあまり記憶にない。
ただその日、年明けにはもう就職先での練習が始まるというので、冬休みを前に圭一郎も穂高も身辺整理をしてしていた。なぜだか教室にがらくたを大量にため込んでいて、クラスメイトや周囲に冷やかされながら片付けをする左腕を、拓真もニヤニヤと見守った。もちろん手伝ったりはしない。
それでもすこし、寂しかった。
それから思い出したように、穂高にLINEを入れる。返事を確認すると、拓真は穂高のクラスに向かった。
「穂高居る?」
と聞けば、今度は元野球部の武田が「コバ、MFの小林がきてんぞ」と呼んでくれた。
「なんかごぶさた?」
「ちょい久々かも。てかお前、身長伸びた?」
「なんだ、嫌味かよ」
長身の穂高に比べて、拓真の身長はほぼ男子の平均だ。ちょっと見上げるくらいになるが、そこは圭一郎と対するときも同じである。あははと笑いながら、穂高は世界史の教科書を差し出した。
「はい。でも、なんに使うん?」
拓真は「おう、サンキュ」とそれを受け取りながら、自分が持っていた世界史の教科書を代わりに手渡した。
「は?」
「それ、俺の」
「…はい?」
「これとそれ、交換な」
え、なんで? という顔になった右腕に、拓真は満面の笑顔を向けた。
「いやー、俺、世界史の授業、ほっとんどお前の教科書で受けてたからさ、なんか自分の見てもさっぱり思い出せなくて」
「え、ええ!?」
「やっぱ、受験勉強するならお前の教科書じゃないとダメだなって」
「はいっ?! なにそれ?」
てか、お前、内部進学なんだから受験しないだろ、と。穂高はぶつくさ言っていたが、それを無視して「じゃあ、元気でな」と拓真は彼の教室をあとにした。
どうか、元気で、と。
二人のエースに別れの挨拶を。
そうして狂乱の年は明け、迎えた春。桜は早々に咲いて、駆け足で散ってしまった。
三年前と同じに。
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