寒椿

2/4
前へ
/20ページ
次へ
 この家は京都の外れにある。  もとはといえば穂高の母方の祖父母の家で、中学時代を過ごした場所だったが、いまの住人は彼だった。  しばらく前に祖父が亡くなり、一人暮らしになった祖母が両親が住む街のケアハウスに移って、空き家になった。家というのは手放すのにけっこうな手間が掛かる上に、人が住まないと急速に荒れる。家族会議の結果(というより母親の意見が通っただけだが)穂高の所有になったあと、博士課程に在籍していた彼に格安で貸したという話で、つまりいま、穂高が大家で彼が店子ということになる。  対外的には。  そして大家たる穂高は、普段は職場近くに借りたマンションで寝起きしているが(本当に文字通り寝起きしかしていない)、オフシーズンを自宅で過ごすため戻って来ている、ということになる。  …対外的には。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

41人が本棚に入れています
本棚に追加