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―回想―【アリーチェ】
「奴隷って……」
アリーチェは、がらんと静まり返った部屋の中でぽつりと小さな声を漏らした。
そう言われても仕方ないのかも知れない。
アリーチェは左鎖骨の下の烙印にそっと手を当てた……。
私の胸にはもう、奴隷の烙印が刻まれている。
これは奴隷の証で、一生私に付き纏い変えられぬもの。
ご主人様に買われた以上、逆らうことは決して許されない……どのような扱いを受けようと、死ぬまで耐え続けなければならない。
それが奴隷の運命であり宿命だ——。
(……それにしても、あんな失礼で意地悪な人がご主人様だなんて……)
私はこれからいったいどうなってしまうのだろうと、強い不安がアリーチェを襲う。
アリーチェは目を閉じ、深くひとつ息を吐いた。
そして、
(お父様、お母様、どうやらここが今日から私が住む場所のようです……)と心の中でとなえた。
心の中で今は亡き両親に語りかけると、黄色い花が活けてある窓へ向かい、アリーチェは静かに手を動かし始めた。
——五ヶ月前、祖国メアーナに沢山の帝国の兵士が攻めて来た。
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