―憂鬱―【デュオ】

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―憂鬱―【デュオ】

 楽しみにしていた。 街へ行けることを——。 城の外へ行くということは、ぼくにとって奇跡(きせき)みたいなものだから。 ぼくは、生まれてからほとんどの時間をこの城の中で過ごしてきた。 読書は嫌いじゃないけれど、部屋にこもってひたすら書物を読んでは勉強の繰り返し。 毎日(まいにち)規則(きそく)正しい生活に同じ(なが)めの部屋からの景色……。 城での生活には自由がない。 窮屈(きゅうくつ)以外のなにものでもない。 本で世界の事を知るたびに、外の世界の事をもっと知りたくなる。 世界ってどんなだろう? この目で見てみたいと思いを馳せるのは、遠くの国や海や空や沢山(たくさん)自然(しぜん)。  けれど、ぼくは物心ついた頃から城の外に出る事は許されなかった。 叶わないとわかっていても、いつかはって考える事は窮屈な城で暮らすぼくの唯一の楽しみだ。  大好きな本がある。 『エイリックの冒険』と言う本だ。  エイリックは貧しい家の生まれだけれど、ある日両親が死んで意地悪な村人たちに村を追い出され一文無しになってしまう。 住むところを失い親友のねずみ、ライトと旅に出るのだ。 当てもない旅は辛くて苦しいものだけれど、彼らにとっての外の世界は未知(みち)なる発見の連続(れんぞく)だった。
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