闇鴉-ヤミガラス-龍玄・学びの章

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闇鴉-ヤミガラス-龍玄・学びの章

 ミル族は、宮殿従事とソート族との行き来を行う者に大別された。それは、宮殿の位置に問題があった。宮殿からソード族のエリアには、2m程毎に設けられた丸太を手がかりに登り降りするしかなかった。大きな荷物は、宮殿側の装置で、必要な時だけ、吊り上げる手段を取っていた。その動力は、クリート族の中で物体移動に長けた者が担当していた。これは部外者の侵入を妨げると言うより、衛生面に配慮したものだった。  ミル族も、宮殿内ではクリート族とは隔離されたいた。ミル族として生まれた子は、宮殿にいても不自由はないが、クルート族のエリアを自由に動き回れない結界が設けられ、クルート族の生活を知ることはなかった。  ミル族は、ソート族との交流を通し、脳の潜在能力は低下した代わりに肉体の強化を手に入れた。中には、ソート族と結ばれることもあった。結ばれれば、宮殿へ入ることは、原則禁止されていた。  アトラスでは、7日に一回、クリート族の担当者が、ソート族の元を訪れ、漁場や天候、農作物や家畜などの問題を聞き入れ、対応策を授ける習わしがあった。その際、病人や怪我人の治癒も行っていた。   映像では、季節や潮の発生具合などをクリート族が探知し、新たな漁場や、それを捕獲する術を伝えていた。また、怪我や病を負った者には、遠隔治療に長けた者が患部に掌を当て、念を送り、治癒を促していた。  勿論、救えない病や怪我もあった。その時は、患者の意識に入り、治療への希望を聴き、場合によれば、尊厳死も視野に入っていた。死の選択は、アトラスでは本人の意識が、最重要視されていた。その際、死者の最後の言葉を遺族に伝えるのもクリート族の役目のひとつとなっていた。  クルート族が特別な許可を受けソート族エリアに入るときは、全身白の厚手の服を着用し、怪我や感染に充分配慮して行われていた。  アトラスには変わった風習があった。それは、男女の交合に関してだった。龍厳が見ている本の内容は、アトラスの末期の記録だった。クリート族は、脳の発達と共に肉体の衰えが、大きな問題となり、男女の肉体的交合が整合しずらくなっていた頃のものだった。   興奮は、バーチャルで何とでもなる。しかし、実施に関しては上手く結合できないままで、問題は深刻になっていた。そこで生まれた風習は、ソード族の結合の場面に同席し、健康な男女の肉体を借りるというものであった。その興奮を借りて、事前に抽出した精子を器具を使い、卵子と結合させるというものだった。   クリート族の婚姻を結ぶ者は、ソート族の婚姻者から、気に入ったカップルを選び、同意の元、交合の儀式が行われるようになっていた。それがアトラスの共存共栄の倫理観であり、日常だった。  衰退が、謙虚に現れ始めた頃、クリート族に変化が生まれ始めた。若さと健康を兼ね備えた者は、近親の結合に危機感を覚え、ミル族、ソート族との結合を認可せよ、と訴えるものが出始めた。長老は、脳の発達の衰えを危惧し、若者は、存続自体を危惧した。当然、ミル族やソート族との結合は、クリート族にとって危険を伴う。しかし、ミル族にはそれを実現して、能力は失ったとしても、幸せに暮らしている者も多くいた。  何世代か後になるかも知れない。しかし、もう後がないのも事実。普段、温厚なクリート族の中に、凶暴性を備えたクルート人が出現し始めた。彼らは、クリート族の禁を破り、ソート族のエリアに夜な夜な降り立ち、ソート族の女を犯すという事件まで発生させていた。犯罪者となったクリート人は、囚われ、ある遠く離れた地下深くの洞窟へと幽閉され、生涯をそこで暮らすことになる。そこは、電磁波が乱れ舞う領域で、精神の集中ができない場所だった。入るのは簡単でも抜け出すことのできないクリート人には死を意味する場所だった。被害にあった女性には完全回復は無理だが、嫌な記憶の抹消と、肉体のケアが侘び替りに隠密に行われていた。   未来を危惧する若者は、古い体質改善を強く、長老たちに訴えた。しかし、その思いは、閉鎖的な長老たちには、認められるはずもなかった。若者は肉体的は、長老たちの比ではない。しかし、脳の覚醒度合いは、年齢、経験を重ねる毎に強化され、若者たちの比ではなかった。  改革派の若者たちは、大胆な手段にでた。クリート族の育成方法は、離乳した頃から、一日の大半を育成カプセルで過ごしていた。常に脳を刺激され、能力の開発を促進されていた。脳は使用されていない能力をどんどん、休眠させていく、それは、成長と共に再度覚醒させるのは、至難の態とされていた。幼子が、大人には見えない子供と話したり、遊んだりというのは珍しくはない。純粋な心は、社会生活を送るのに必要な人間関係という他人を気遣う気持ちが様々なフィルターを掛け、 真実を見えなくなることもある。脳の発達には、純真な心、好奇心が大いに必要であるとされている。そのために隔離され、育成されている。革新派の若者たちは、そこに目をつけた。若者たちは、監視の目を盗み、子供たちをソート族のエリアに連れて出し、遊ばせた。子供の時期に外部と接触させることは危険を伴うが、免疫細胞を活発にさせるには、良作だった。肉体が補えないことを脳が補う。肉体が補う範疇が増えれば、脳はその分、機能を休眠させ、脳の負担を軽減し、過度な使用を避けるようになる。それが、脳の延命行為になる。革新派の若者は、脳の覚醒範囲を狭めても、健全な肉体を得ることが、人間として正当だと考えていた。  クリート族の子供に原因不明の病気が、蔓延し始めた。長老たちは、原因を推し量れずにいた。なぜなら、子供たちに強い結界が張られており、疑うことを知らない長老たちには、首をかしげるばかりだった。そのようなことが何度か続いた。結界を張っていた若者が、他のことに気を取られ、一部の結界が軟弱になっていた。ある長老は、それを見逃さなかった。小さな結界の綻びから、結界の全面撤廃へと導いた。若者たちは、長老たちの裁きを受け、遠き島へ飛ばされた。長老たちは、テレポーテーションの術を得ていた。しかし、その労力は、脳に大きな負担を強いやった。担当した長老は、数週間、寝込むことになった。若者たちには、座標を知る術がなく、能力はあっても、元の位置には戻れなかった。  時は経ち、革新派の若者たちを遠くの島に飛ばした長老たちは死に、新たな長老たちが彼らの意思を引き継いでいた。
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