闇鴉-ヤミガラス-龍玄・学びの章

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 ムラクの記憶を頼りにフラクは映像を断片的に見ていた。 詳細を知りたい場合は、その場面を止め、更に深くフラクの記憶に潜り込む。それで大概は見通せたが、衝撃や驚嘆が記憶を消滅させることもあり、その復元は困難を極めた。  事の始まりは…サラとアシトが洞窟の探査に出かけたんだな…その晩、サラとアシトが意味不明の叫びをあげながら、拠点を飛び出した…4人はそれを追いかけて洞窟へと入った。落ちていくような悲鳴が聞こえた。しかし、声のする方を探索するも見つからなかった。翌日、松明を持ち、探した。  「うん…」  「ムラク、君は何かを感じているぞ」  「もう忘れてしまっている、構わない深層心理に入ってくれ…」  「分かった…強い邪念を感じる…これは…これはクリート族の波長だ。サラとアシトか。いや、違う。ムラク、その場所に連れて行ってくれ」  「分かった」  フラクはより記憶を辿るためにバトルに憑依し、その記憶を体感することにした。フラクの憑依したバトルの前をムラク、マキタ、ジルクが洞窟に向かっていた。中には入り、かなり進んだのか、距離感が掴みづらい。奥に進むにつれ、重い苦しく、生臭い空気が包み込んでくる。   「何だ、この臭は…」   「あの時は感じなかった」   さらに奥に進んだ。  「何かあるぞ」   「これは、サラとアシトの履物だ」   「一足づつ、ある。ここで足を引っ掛け、この穴に落ちたんだな」   フラクが覗き込むと、地下からゴォーという音と共に、あの生臭い風が吹き上げてきた。  「下がれ、下がるんだ」  フラクは叫び、3人を物体移動の能力で、穴から遠ざけた。いざ、自分も移動しよとした時、憑依しているバルトの身体に異変が現れた。意識が遠のき、体が穴に吸い込まれるように一歩、一歩、近づいていく。   「バルト、しっかりしろ。意識を強く持て、持つんだ。バルト」  フラクは、持てる力で最大限抵抗したが、同時にそれは、バルトの体を著しく、衰退させることになった。これ以上は危険だ。そう感じたフラクは、バルトから抜け出た。その瞬間、バルトは穴の中に一瞬にして、吸い込まてしまった。フラクと後方避難した3人は、バルトの名前を叫ぶしかなかった。  フラクは、異様な感覚に包まれていた。  「逃げろ、逃げるんだ」   フラクのテレパシーによる叫び声で、全員、洞窟を後にした。心痛な思いで拠点に戻ってきた。  「フラク、何があったんだ」  ムラクは困惑するフラクに問いかけた。   「私が見えるか」   「見える、若い時の」  「恐ろしいモノを感じた。それは、クリート族の残留思念だ。それも、地下からだ。考えられるのは…」  「どうした、何だ、早く言えよ」  「お前も知っているだろう、罪人の幽閉を」    「あぁ、聞いたことがあるが、座標は長老だけが知っていると聞く」   「私も長老だが、まだ誰1人裁いていない。だから、知らないんだ」  「そうか、それがどうした」  「…間違いなくクリート族の残留思念だ、あれは。それも相当に強い…」  「まさか」   「あぁ、そのまさかだ。サラとアシトは、偶然か導かれたか、洞窟に入った。私たちが引き込まれそうになったように、2人は網にかかったんだ」  「なぜ、そんなことを」   「結界だ。長老たちによって、クリート族の力を統括し、それをもとに結界を敷いている。だからこそ、1人や2人の優秀なクリート人には破れない。そもそも優秀なクリート人は、人格も備わるから罪人にはならないがね」  「それなら、何を心配している」   「私がここに来たのも、その件に関係ある。いま、クリート族の存亡の危機に陥ってる。即ち、すべての歯車がバランスを失いつつある。結界もだ」  「結界が弱っていると」   「そうだ、結界を破る石として、サラとアシトが使われた。それでも足りなかった。がバルトで間違いなく、破られる。そうなれば、何が起こるか分からない」  「どういうことだ」  「言ったろ、残留思念だぞ。それも、幾多の思念が融合し、巨大な力になっている。でなければ、あれほどの強い力は感じるはずがない。しかも、肉体がないということは、終わりがないということだ。ことは、急ぐ。ムラク、マキタ、ジルカ、戻ってきてくれ、長老たちは、私が説得する」   「俺たちは、抗体を持った。もはや、クリート人としての能力はない」  「いや、希望はある、現に私を見、話しているではないか」   「…」   「長老たちの中に、打開策を知っている者がいるかも知れない」  その時、彼らがいる島が大きく揺れ始めた。  洞窟の辺りが芹上がってきた。   「いくぞ、命を預けてくれ。上手くいかなければ、全員、終わりだ」  空は噴煙で灰色に染まっていった。フラクは祈るような気持ちで、3人をテレポーテーションに掛けた。アトラス島まで、何度か陸地を見つけ、休憩を繰り返し、進路をとった。  探査能力に長けたタートは、時空の歪みが近づいて来るのを微かに感じていた。アトラス島の最も高い丘に立ち、微弱な波長を感じ取るため、集中力を高め、情報収集に努めた。そこには、クリート族特有の波長が、途切れ途切れ、感じ取れた。胸騒ぎがした。  タートは、テレパシーのテトと物体移動のブートをテレパシーで呼び寄せた。アトラス七星は、島内の移動や連絡程度なら、支障はなかった。   「どこから、感じるんだ」   「水平線の遥か彼方からだ。テトならできるだろう探りを入れてみてよ」   テトは集中力を高めた。そこには、移動している数名の存在を感じた。テトは、誰なのか、なぜ、移動しているのか、を問いかけた。それをフラクは感じ取った。近場の陸地で、休息を兼ねてと、テトに返信した。   フラクは、テトと何度か、制度の改革について話していた。フラクは、アトラスの記録映像を交えて、危惧している案件をテトに報告した。テトは、ブートに彼らの誘導援助を依頼した。   ブートは、テトとフラクの交信波長に同調させ、座標を探り、移動を援助した。やがて、水平線の彼方にオレンジ色の珠が現れた。それは、回転しながらスピードを増し、近づいてき、舵を削ぎ取られた飛行物体のように浜辺近くの海面に衝突した。激しい水飛沫が上がった。凪を取り戻した海面には、3人の男がいた。  フラクの念は、宮殿にある肉体へと戻っていた。フラクは疲れた精神をおして、他の長老たちに侘びを入れた後、事の次第を報告した。長老たちの中には半信半疑の者もいた。クリート人同士の予知は出来ない。結界による弊害だった。それゆえに、クリート族の現状を予知できないでいた。  平穏な二日間が過ぎフラクは、罪人の無許可連れ帰りの罪に問われようとしていた。抗体を持ったムラクら三人は、ソートエリアにあるテトたちの拠点にいた。テトたちは、思い出話やお互いのその後の体験話に花を咲かせていた。フラクたちが戻って、三日目のことだった。   テトは、今までに経験したことのない強い念を感じた。テレパシーでフラクに伝えた。フラクは、意識を飛ばし、テトと波長を同調させた。それはまさにあの洞窟で感じた臭のする念だった。フラクは長老たちを集め、迫り来る醜悪な念の存在を訴えた。長老たちは、信じがたい現実が迫っていることを認めざるを得なくなっていた。  ここで龍厳は、法師から助言を受けた。  「大別すること。一、物事はすべて、肯定的に考えること。否定的に考えれば、放棄し、楽になることへと思考は働く。肯定的に考えれば、これがだめなら、これがある、もっとだめなら、代案を探す。この行程は諦めないと言う問題解決に最も必要な活力を得る。一、縺れた糸は、ひとつひとつ気長に対処すべし。さすれば、解れよう。切断は苦肉の策なり。一、80%理論。完璧を目指すな、80%でいい。20%は失敗、予想外、立ち止まる勇気、遊びに充てよ。よって、これしかないと言う選択のない道は選ぶな。また、それに至るまでに、対処せよ。一、故事・格言、ことわざ、昔話、言い伝え、などは、先人の残した貴重な経験の教えと捉えよ。などがあった」    危機管理とは、《備えあれば憂いなし》であると思っていた。無駄に見えても、少しでも疑念があれば、対処すべし。そう思っていた。  その助言を踏まえて、映像を続けて見た。  水平線に、灰色の雲が噴煙のように動きながら、アトラス島に向かってきていた。アトラス七星は、ソート族を安全と思われるで岩場の影や洞窟に避難させた。テトは来るべき災難を予想し、避難し辛い老人、病人、子供の介護グループと、健康な男女の活動グループに分けた。さらに、それを介護グループを引率する活動グループに振り分けた。ブートはテトの思惑を察知し、運搬用の荷車を用意させ、帆の準備をさせた。最悪、荷車を筏にし、島からの脱出を図ることを、配慮してのことだった。
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