闇鴉-ヤミガラス-龍玄・学びの章

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闇鴉-ヤミガラス-龍玄・学びの章

 革新派の若者たちに連れ出された幼子たちも成長し、16歳になっていた。彼らは、感染病による高熱を幾度か繰り返し、その都度、抗体を身に付け、明らかに他の子供たちとは、異なった成長を遂げていた。それは、他の子たちは、平均的に多岐に渡る覚醒を得ていたのに対し、彼らは、ひとつの覚醒に特化していたのだ。   火を操る者、水を、風を、幻影・結界を、そして、物体移動に、探査能力に、テレパシーにと、それぞれが、他を圧倒する能力を得ていたのだ。   個体では、取るに足らずも、結集すれば驚異の存在となっていた。抗体を得た彼らは、宮殿の生活に物足りず、長老たちの目を盗み、昼夜を問わず頻繁に、ソートエリアに足を運んだ。   彼らは力を結集して問題に立ち向かい解決していた。七人は、北斗七星にあやかり、アトラス七星と名乗り、好奇心を満喫していた。   森の一画に秘密基地と称して、生活拠点を作り、ソート族と暮らすことを決心した。ソート族に溶け込むため、テトが考案したものは、大衆風呂だった。テレパシーを操るテトは、彼らのリーダー格だった。テトは六人に適した役割を任せた。探査能力に長けたタートには、岩風呂に適した岩や軽石の探索。それを運んぶのが物体移動のブート、火のヒートと水のミートが、湯加減を管理、風のカートが濡れた体の乾燥を担当。バスタイムをより楽しめる風景を結界のケートが。集客は、テト短らが担当した。  入浴料は、収穫物を分けて貰うことで、ソート族との交流を図った。  映像を見ていてふと龍厳は思った。  「これが三本の矢、の考えってことか」ひとつの特化した能力では、帯に短し、襷にながし。集結させれば、新たな道を生む。1+1=2、だけでなく、3にも4にも化ける素材をどう活かすか、要は活用方法の考察ってわけか」  さらに、自分ならどう活用するかを考えていた。   テトはソート族の日常を観察し、収集したい情報があれば、ソート人の心に入り納得いくまで解明した。ソート人は、入浴を滝壺で行っていた。打ち水は使える、しかし、体は冷える。体は適度に温める方が血行が良くなり、疲れが取れる。打ち水で、体をマッサージし、湯で体を解すことを、宮殿で学んだ知識から、思いついた。さらに、くつろぐスペースを作り、ソート人との交流の場として活用した。   大衆風呂は、ソート族に受け入れられ、アトラス七星の中には、ソート人の女性と恋に落ちる者もいた。彼らがソート人に溶け込む姿は、新たな問題を生み出していた。ソート人の中には、クリート族の存在意義に疑問を呈する者も出てきたことだ。   一方、クリート族の宮殿では、危機的な状況を招いていた。それは、出生率の低下、新生児の生存率の低下だった。長老たちは、アトラス七星の道を歩むか、真剣に悩み始めた。肯定派の長老の中には、ソート族との交流を訴える者もいた。  革新派の処罰を取り沙汰する者も現れた。宮殿の中では、肯定派と反対の意志を表明する保持派とに分かれた。一触即発にまで喧騒は進行していた。  業を煮やしたある肯定派の長老の中には、過去に処罰した者たちとの接触を、画策する者もいた。肯定派の長老のフラクは、処罰した者たちの座標を入手し、実際にコンタクトを試みた。勿論、意識のみを飛ばす方法でだ。   彼らを見つけるのは、難しくはなかった。処罰したのは、8人。現存者は4名だった。彼らは、ソート族と変わらない、自給自足の生活していた。  彼らは宮殿では、長老に相当する年齢になっていた。フラクは、彼らの能力の低下を実感していた。フラクは、敢えて気配を消さず、彼らの直ぐ側に位置した。しかし、誰ひとり、フラクの存在に気づく者がいなかったからだ。  「これが現実か」   フラクの落胆は図り知れなかった。4人とは一緒に学んだ仲だった。フラクは最もソート人化したバルトに憑依した。   「久しぶりだな、マキタ、ムラク、ジルカ、フラクだ」   三人は、すぐに状況を把握した。フラクは彼らの懸念の正しさを認め、謝罪し、アトラスの現状を説明した。その中には、革新派だった彼らがやろうとしたことを、成し遂げているアトラス七星のことも含まれていた。   「あぁ、あの時の子供たちが…そうか」  感慨深げにムラクが言うと、マキタとジルカは大粒の涙を流して、頷いていた。  「それで、フラク、君が来た訳は」   「読めないか」   「あぁ、もうすっかり、脳の覚醒は萎縮した」  「そうか」   「空間認識能力が最初に低下した。どうも海藻が原因らしい。わからないが。テレパシーも使うことがなく、退化した。物体移動能力も肉体の強化と共に退化した。いまの私たちは、ミル族より、劣っているかもしれない。それが現実だ」  「そう、みたいだな。淡い期待を抱いていたが仕方あるまい。今更だが、詫びる気持ちで言う。戻ってこないか。若者たちが実績を作っている。彼らと新たな生き方をしてはどうか。彼らは、きっと喜ぶと思うよ」   「アトラスか」  ムラクは、ふたりの顔を見た。故郷への思いは消しされるものではなかった。ふたりは大きく頷いた。ムラクも同じだった。  「任せようと思う。バルトには後で説明しよう」   「それは必要ない。憑依していても、彼の意識はここにある。彼も同意している」   「そうだったな、そんなことも忘れてしまっているのか、自分が情けなくなる」  「そう言うな。これから、新たに生まれ変わると思って欲しい」  「そうだな、そうしよう。私たちが描いた希望を彼らが実現していたのか。私たちが行ったことは、間違いではなかった、そうなんだな、フラク」  「そうだ、だから、私がここにいる」  「ムラク、後の4人は」   「2人は環境に適応できず病死。後の二人は洞窟を探索した後、気がふれて、行方不明のままだ」  「洞窟で行方不明…ムラク、君の記憶意識に入ってもいいか。二人はいきているかも」  「あぁ、いいさ」  フラクは、親指と小指でムラクの両こめかみを挟むと、その手の甲に念を送った。映像を見ながら、ムラクに質問しつつ、記憶を辿った。
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