闇鴉-ヤミガラス-龍玄・学びの章

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/11

闇鴉-ヤミガラス-龍玄・学びの章

 フラクはソートエリアに降りてき、テトら七星とムラクら3人と合流して、状況を見守った。ミル族は、ソート族の筆頭に立っていた。アトラス島はすっかり灰色の噴煙雲に覆われていた。  雲の合間から稲妻が放たれ、島のあちらこちらに被害をもたらしていた。稲妻は何かの力に導かれるように威力を増し、宮殿を破壊し始めた。  宮殿内のクリート族は外気にさらされ、生命の危機に慄いていた。長老たちは、若いクリートたちを集め結界を敷き、子供たちを守っていた。   その結界に容赦なく、稲妻が襲いかかってくる。   「お前たちは、魂になってまで、私たちに恨み続けているのか」 と、長老の一人が絶叫した。凄まじい風が宮殿を巻き込み、外壁や書庫の本が崩れ、瓦礫のようにソートエリアを襲った。  「この時をどれほど、待ちわびたか。お前たちへの積年の恨み、魂になっても消えぬわ。この苦しみ、お前たちに何倍にもして返してやるわ、受け取れー」   放電した光の帯が竜巻に巻き込まれ、大きな火の玉となり宮殿に放たれた。噴煙のあとの宮殿は、一挙に廃墟と化した。  クリート族の殆どが、ソートエリアに弾き落とされた。子供たちのカプセルは、容赦なく地面に叩きつけられ、壊滅状態に陥った。   探査能力に長けるタートは、相手が何者か、持てる力すべてを駆使して探った。そこで、得た情報は…。   罪人として真っ暗な洞窟に送り込まれた、数多くの悪のクリート人たち。水や苔を食するも、死を身近にするだけだった。死肉をあさり、生き延びる者も。闇は視力を奪い、音や物が出す振動、波長を敏感に感じ取るようになり、彼らを疑心暗鬼の恐怖に導いた。それは、出口のない不安であり恐怖だった。この環境下で彼らを狂人化へと変貌させていった。    環境に対応する能力は、念の力と融合し、送られてきた者すべてに、受け継がれた。洞窟には、強い結界が敷かれていた。それが災いし、肉体を失った魂は、洞窟内に留まり、融合していった。それぞれが持っていた固有の秀でた才能が融合し、新たな力として変化し、ひとつの人格を作り出していた。  クリート族の力が弱まり、結界の縛りにほころびが出始めた。そこへ、サラとアシトが、迷い込んできた。変貌を遂げた魂は、サラらの持つ善のクリート族の力を使い、結界に亀裂を入れることに成功する。  バルトで、僅かな風穴を開けることに成功した。風船から空気が抜け出るように、魂は外界へと抜け進み、フラクたちの臭いを頼りに、アトラス島へと辿り着いた。悪意の塊となった魂は、邪悪な復讐の鬼と化していた。  悪意の魂の狙いは、クリート族をこの世から抹殺し、ミル族やソート族の苦しむ姿を見、自らの存在を確立させることだった。そこに、共存や和解の二文字など、なかった。   タートは、得た情報を生存しているクリート族、ミル族のすべてにテレパシーで共有した。テトとフラクは、その情報をもとに分析した。  彼らの生体は、コウモリに似ていること。狙いは、クリート族の抹消。ミル族とソート族は、玩具として生かす可能性が高いこと。能力に関しては計り知れないこと。  二人はひとつの疑問を共有していた。それは、これだけの力を備えながら、なぜ、ここまでの道のりに時間がかかったのか、というものだった。その疑問をもとにタートに、悪の魂の行程探索を依頼した。タートは、彼らの臭いを頼りに、行程を逆行した。   その映像は、結界を敷いた中にいるアトラス七星とフラク、ムラクら11人で共有した。彼らは、アトラス島に向かう途中、海嵐に会っていた。臭いを追うため、海面近くを走行していた時のことだった。  魂の塊は、風に吹き上げられる海水を浴びていた。海嵐を抜けてから、魂の塊の機動が明らかに劣っているのが見受けられた。  タートは、渦を巻き進む塊のある変化を感じ取った。それは、塊を覆う白い痕跡だった。  観察すると、白い痕跡の部分の動きが明らかに鈍化している点だった。水を操るミートは、火を操るヒートに視線を送った。二人にはそれだけで良かった。二人の思惑は瞬く間に全員が共有した。  その頃、結界の外では、生き残ったクリート族が結界を張り、ただただ、攻撃に耐えていた。結界に弾かれた力は、島に異変を持たらし始めていた。小刻みな大地の揺れは、振り子運動のように激しさを増して来ていた。   タートは、島を探索した。海底が濁り、岩盤が削られていた。塊の念の力を結界が下へと受け流していた。合わさった念の力は、威力を増し、岩盤を削り取っていたのだ。   タートは、島がまもなく沈没すると、告げた。テトは、ミート族とソート族を百メートル程離れた姉妹島に避難させることを決断した。   彼らの攻撃は、アトラス島に集中している。姉妹島は別世界のように穏やかだった。テトは、ソート族を引率するミル族に、姉妹島を望める浜辺に全員を集結させるように支持を出した。テトは、アトラス七星にある提案をした。  「ザックの活動を一時的に停止させ、その間にソート族を姉妹島に移動させる」  「テト、ザックって何だ」  「あの塊の名だよ」  「何か意味があるのか」  「そんなモノない。単なる思いつきさ」  仲間たちは、窮地の中での一息を付き、気持ちを切り替えていた。  「これから、各自、念を集中してもらう。テレパシーは使えない。聞くことで気持ちを共有する、そのための呼称、ザックだ」  「わかった、それでどうするんだ」   「ザックは塩分の粘着性や何かの成分で、動きが鈍化する」   タートが、海嵐の後のザックの動きで着目すべき視点をクローズアップで見せた。   「ミートが海水を上に、カートがそれをザックに被せる、ヒートが程よく乾燥させる、程よくだぞ」   「程よく?」   「粘り気を持たせるんだ」  「分かった」   「ザックは必ず、海中に潜り、粘り気を落とすはずだ。ザックは海中に慣れていない、魚や海藻などから跳ね返る音波に戸惑うはずだ。やつは、コウモリ初心者だからな」   「コウモリ初心者か」  一同は笑って納得していた。いや一縷の可能性に光を見出すしかなかった。  「俺たちはどうするんだ」   フラクは七星以外を代表して、問うた。  「結界を必要に応じて作ってください」   「よし、分かった」  テトは、ミル族の準備が出来たのを確認した。  「よし、いくぞ!」   水のミートが海面を浮き上がらせ、それを風のカートが、暴風雨のように、ザックを襲わせた。火のヒートが乾燥させる。ザックは、クリート族との念の綱引き状態で、動きが取れずにいた。そこに海水が襲い、熱により、それは、粘り気のある白い苔のようなものとなり、ザックを覆い始めた。  ザックの動きが鈍り、後退しながら、海に沈んでいった。  「やったぞ、いまだ、島までの通路を作れ。ミート、島までの海水の柱を左右に作るんだ。ケート、結界で壁を作り、広げてくれ」  「任せておけ」  ケートは強い結界を自由に操る達人だった。海に見事な通路ができた。テトは、ミル族に早く渡りきるように急がせた。   「カートとブート頼むぞ」  その一言で、二人はテトの意思を汲み取った。ブートは物体移動で老人やけが人を移動させた。カートは、子供たちを乗せた、帆を立てた荷車の推進力として、帆に風を当て、引率するミル族をサポートした。健康な者たちには、走って渡らせた。ケートの力に限界が迫っていた。それを、フラク、マキタ、ムラク、ジルカがサポートした。マキタ、ムラク、ジルカは、危機的状況に置かれ、眠っていた能力の幾らかが回復していた。  「急げ、ザックが浮上してきたぞ」   タートが叫んだ。  「後、少しだ」   テトは、見晴らしいい丘に移動した。ザックが、避難誘導に集中しているブートとカートを狙ってくると感じたからだ。  「ブート、右後ろだ」  ブートの後ろで岩が持ち上がり、次の瞬間、急速にブートへ向かってきた。ブートは危機一髪で躱した。  「ありがとう」  「カート、左だ」   カートも間一髪、岩を躱した。テトに向かって、稲妻が放たれた。テトは瞬間移動で難を逃れた。  「避難、完了!」  ブートが叫んだ。テトは万が一を考え、ミル族に姉妹島の一番奥の鍾乳洞に避難するようにテレパシーを送った。   ヒート、ミート、カートは、再び、ザックを塩漬けにと動いた。それをテトが、止めた。ザックは激しく回転していた。  「あれではすべて、弾き返される」  「ソート族以外の全員の念で押し潰すしかない。ザックを挟み撃ちにするんだ」   テトは、アトラスの生き残り全員に一斉送信した。ふた手に別れたアトラスの戦士たちは、ザックへ向けて一斉に念を送った。ザックの球体は、上下左右と楕円形に変化を見せた。   ザックは、オレンジから赤に変色し始めた。大きなエネルギーがアトラスの一画で激しくぶつかり合い、放電が天に、海に放たれていた。  アトラスの島が沈んでいく。宮殿を聳えさせていた、きのこ岩盤が崩れ落ち、大きな波飛沫と轟音を撒き散らした。   空の様子が急速に変化し始めた。彼らの巨大な力が、自然界のエネルギーバランスを壊し始めている、とタートは感じていた。   ここで、引けば敗北を意味する。それは、邪悪な魂による無毛で殺伐とした世界が広がることを暗示していた。突き進むしかなかった。どちらかの執念が尽きるまで…。   大気圏の層に現れた亀裂をみんなが感じていた。天はすっかり曇天に覆われ、稲光が激しく放たれていた。天全体が白く、一瞬光った。   ごぉぉぉーと唸りと共に最大級の稲妻が、アトラス戦士とザックの間を切り裂いた。その稲妻は放電を繰り返し、大きく膨張し始めた。  そう、最大級の稲妻は、突然変異か大きな力の戒めのようだった。   海が荒れ、波は火山噴火のように天に舞い上がり、見る見る海底が地肌を表し始めた。誰かが言った、「天の怒りだ」と。   次の瞬間、天に舞い上がっていた海水が大きな渦となり、一機に地上を襲った。落雷のごとく、怒涛の唸りと共に…。テトたちの意識も、燃え尽きるようにその唸りに飲み込まれていった。
/11

最初のコメントを投稿しよう!