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年年歳歳花相似たり 1
どうして此の場所にやってきたのか。
今となってはもう思い出すことも出来ない程に、遥か遠く昔。
僕はふらりと此処にやってきた。
今は昔——日本の首都である東京が、まだ人々の間で江戸と呼ばれていた頃の話だ。
鬱蒼という言葉があまりにも似合う木々たちの足元を、するりするりとかわしながら、僕は何かに誘われる様に足を進めた。
——そう、誘われるように……。
時折、鼻先をくすぐる甘い香りにふと上を仰ぎ見れば、何とも美しい白い花が柔らかく吹く風に花弁を揺らしていた。
それが風に舞う様は、良く晴れた冬の日に、光を纏って輝く雪と見間違うほどだった。
はらりはらりと舞い降りた花弁が、次々と地面を白く染めていくのをぼんやりと眺めていた時、不意に何かの気配を感じた僕は息を潜め、身を固くした。
そうしたからといって、己の身が完全に守られる訳ではないことを、僕は解っていたのだけれど、何もしないよりは少しはマシだろうと思ったのだ。
確かに感じる我々とは相反する存在の呼吸に、今さらながら僕の心を捉えた美しく白い花と、己の警戒心のなさを呪った。
僕の命も此処までかと、小さく息を吐いた時、僕の耳をくすぐる様に響いた声は、想像していたそれとは似ても似つかない程に可憐なものだった。
「わぁ……綺麗だね」
今、思い起こせば、その言葉は独り言であったのかもしれない。それでも、あの日の僕には、どこか同意を求めているようにも聞こえたのだ。
僕の言わんとすることが伝わるか伝わらないかと考える時間は、とても滑稽なことの様な気がした。
重要なことは、僕も同じことを考えていたということだ。
意を決した僕はゆっくりと振り返り、その可憐な声の主を見据えた。
色つやの良い黒髪をきっちりと結い上げ、小花が散りばめられた淡い桃色の着物を身に纏った、声と同じように可憐な娘だった。
「綺麗だね」
柔らかく微笑んだ娘は、美しい景色の一部に溶け込もうとでもするかのように、深く息を吸い込み、ゆっくりとそれをはき出した。
透き通るように白い首筋から少しばかり視線を上に移すと、ほんのりと桃色に染まった頬が目に入った。
柔らかな毛に包まれた己のそれとは全くの別ものだ。
つるりとした肌と、砂にまみれた汚らしい手。
この世界はなんと不可思議なのだろう。
そろそろ行かなくちゃ。はじかれる様に肩を揺らした娘が、じゃあね。と言って小さく振ったその手もまた、透き通るように白かった。
何かに急かされる様に歩いて行くその背中を、僕はただただ見つめ続けた。
美しく咲く白い花を見て、こんな僕でも同じように美しいと思うことが出来るのだということを、あの娘にきちんと伝えられたのかどうか。
僕はそのことが、酷く気がかりだった。
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