年年歳歳花相似たり 1

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娘の話はこういうものだった。 娘には想いを確かめ合った殿方がいて、いつかは夫婦(めおと)になって幸せな家庭をつくることが二人のささやかな願いであった。 しかし、娘の父上は二人が夫婦になることを許してはくれず、ついに二人は会うことを禁じられてしまった。 「早く忘れなければと思うのだけれど、そう思えば思うほど、あの方を想う気持ちが日毎大きくなってしまうの。 朝、目が覚めてから、夜、眠りにつくまで。いいえ。夢の中でさえ、私はあの方のことを想っている。 寝ても覚めても、というのは、こういうことなのね。 恋をすることがこんなにも甘く胸を締め付けるなんて知らなかった。 ねえ、私はどうしたらいいと思う? 」 まさか問いかけられるなどと思っていなかった僕は、答えを待っている娘の顔を凝視したまま硬直してしまった。 心の内を吐きだしたいだけなのだろうという僕の思い込みが、己の首を真綿で締め付けてくることになろうとは思ってもいなかった。 娘には伝わりはしないだろうことは解っていたのだけれど、僕は激しく動揺していた。 どうにか、娘に僕の言葉を伝える術はないものか。 「そんなに怖い顔をしなくても大丈夫だよ」 娘は僕の頭の上に掌をそっとのせると、柔らかく毛並をかき混ぜた。 はじめて感じる少し(くすぐ)ったいような感覚に、思わず目を閉じてしまいたくなる。 「大丈夫。ちゃんと伝わるよ」 そう言って柔らかく微笑んだ娘を見つめ、僕は一体何にそんなにも囚われていたのだろう。そう思った。 娘と僕が同じ音を持っていなくても、それは大したことではないのだ。 娘に伝えようとすることが重要なのだ。 僕は真っ直ぐに娘を見つめた。 誰かを大切に想うという気持ちはとても尊いものだ。 取ってつけた様に、誰彼構わずそんな風に想えることなどあり得ない。 この世の中には、数えきれぬほどの人間が存在している。 それでも、本当に心から愛おしいと想い合える者に出逢えるのは、ほんのひと握りであろうと僕は思うのだ。 例え、夫婦になれぬとも大切に、大切に……心の中にしまっておけば良い。 決して、無理に忘れる必要などないのだ。 「そうだよね。忘れなくてもいいんだよね」 僕の頭を撫でながら、ありがとう。と呟いた娘の声を聞いた時、僕は嬉しさのあまり涙が溢れてしまいそうだった。 同じ言葉を持たずとも、僕と娘は解り合うことが出来たのだ。 そのことが、酷く嬉しかった。
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