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青く染まった空、ゆったりと流れる雲。 緑色に染った木がザワザワと揺れている。 『聞こえる?』 丁寧な字で書かれた文字が目に入った。 近くに置いてある小さなホワイトボードと黒いペンを手に取り、サラサラと書いていく。 『聞こえません』 『そっか』 彼女は嫌な顔をひとつせずに次の文を書き始める。 『次は夕方に来るね、もし何か異変を感じたら直ぐに呼んでね』 こくりと頷く。 ふわりと微笑んだ彼女__看護師さんは私が今いる病室を出ていった。 閉まった瞬間を目に焼き付け、どんな音が出るのだろうかと思い始める。 私は、1年前から耳が聞こえない。 何も聞こえないのだ。 人の声なんて聞こえるはずがなくて。 先程の看護師さんの声は1度も聞いたことがない。 どんな声をしているのか 高いのか低いのか 想像するだけで終わって、それ以上を望んでも叶うわけがない。
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