74人が本棚に入れています
本棚に追加
/166ページ
「そなたは、今回選ばれた者等の中で大学の平均成績は最低である。更に、武術に関しても……何故、私に選ばれたか分かっておるか」
僅かに笑み、そう問うてみた沙羅を志鶴は見据えたまま。
「いえ」
静かに答えた志鶴。表情も、瞳孔すらも変化を見せぬ其の顔に、沙羅が目を細める。
「……にも関わらず、重要な試験の成績のみ何時も群を抜いておるからだ」
やはり、変化の無い志鶴の瞳。沙羅は続ける。
「そなた自身に、興味がわいた……私がそなたへ決した理由は、其処だ」
告げられた言葉へ、志鶴は漸く僅かに眉を動かした気がする。そして、徐に頭を下げた。
「……恐れ入りまする」
沙羅は気だるげに、溜め息を吐いた。
「正直、私は我が子への地位等望まぬ。柵(しがらみ)の多い位置だ、面白味に欠けるでな……だが、そなたをつけると面白そうだと思うた」
「沙羅様は、私めに何を期待なさるのか……」
問う言葉に、沙羅の瞳は強く鋭くなった。
「私は、後の二人を信用しておらぬ。条件は一つ、我が子の命は、何があっても守って貰う……其れ以外は、思う様に戯れて見せよ」
暫し、互いに睨み会うが如くの沈黙。志鶴は、身を正して厳かに沙羅へと拜をする。そして。
「咲矢様を、生涯の主とし忠義を尽くします――」
沙羅へと、思いの全てを込め静かに口にした言葉。其れは、沙羅を大いに満足させた様であった。
最初のコメントを投稿しよう!