ウツクシキハナタチ。

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「母上が命じて下され」  再び強く頼んでみる。此処で、志鶴も一度箸を置いた。声を出す前に、沙羅へと頭を下げて。 「咲矢様が此の世にて、健やかに、無事生涯を遂げられる為に御座います」  己が課した、咲矢への日々の課題。此の真意を沙羅へと告げる志鶴。沙羅は口の端だけで笑みを作り、可愛い息子を見る。 「私が志鶴に命じておるのが、此れでな」  母がこういう笑みを見せる時は、何を言うても無駄。現状は変わらぬと言う事。 「此処に私の味方はおらぬのですな……」  咲矢は、遠くを見詰める様に憂えていた。こんな日々を送っていては、何を楽しめと言うのだ。そんな咲矢へ溜め息を吐く沙羅と、相変わらず表情無く控える志鶴。しかし、志鶴も思う事はある。此の怠け癖のある主を支えるのは結構な重労働。給金は確かに見合うが、職務も相応だと。  食事を終えた後、半時は咲矢の休息となっている。其の休息の時には、顔を見せるなと言われている志鶴。此処だけは譲らぬ咲矢へ、沙羅もある程度護身が身に付いたのであれば、好きにさせてやってくれとの事。沙羅の了承があるのならと、此の時は志鶴にとっても咲矢の御守りより解放される貴重な時。勿論、適当に休息する時もあるが、咲矢の身の回りの、様々な事を整える為に使う事が多い。本日は、咲矢へ新たな課題を課す為に書庫へと向かっていた。廊下の角を曲がる処へと差し掛かった処で。突然影が。
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