ハジマリハ。

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 そんな側室三人が其々産んだ男児が、花枝を母とする悠之介(ユウノスケ)、沙羅を母とする咲矢(サクヤ)、梓を母とする瑠璃丸(ルリマル)。  鷹政は側室達へ、息子達の元服を前に、教育係兼側仕えとして優秀な者を選ぶ様に命じた。  其々は、我が子の教育係をあらゆる情報網にて、真剣に選考した。より優秀な、そして、若く腕もたつなら尚良いと。斯様な条件を備え、其の選考を勝ち抜いて来た武家出身の男が三人揃ったのだった。  其の一人、咲矢を息子とする沙羅の御前にて、礼装とされる羽織袴を纏い拝する一人の青年。長い髪は、馬の尾の如く頭上へ結われ、下げた頭と共に畳へ垂れ下がる。 「――此の度、咲矢様の御側を許されました、志鶴(シヅル)と申しまする」  青年の静かで強い声が、厳かに部屋へ通る。其の声へ頷くは、側に控える息子の年と容貌が合わぬ程に美しい容顔の女、沙羅。艶の衰え見せぬ髪は、大垂髪に結われて。上より其の頭を眺め、取り敢えず一仕事は終えたと、沙羅は満足げに微笑んでいる。 「面をお上げ、志鶴」 「はっ」  徐に上がった、志鶴と呼ばれた青年の顔。其の美しい容姿も、沙羅は満足していた。落ち着いた、というのか、涼やかな目元は物事を理性的に見る冷静な印象がある。だが、其の瞳をよく見詰めてみると其れだけでも無い様な。不思議なものだと沙羅は軽く頷く仕草を見せ、傍らの脇息へ肘をつける。
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