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「そうですよ。リョウスケ様ならきっと、立派な船乗りになれますよ」  あしげく通っていたいたせいか、使用人のカルダとはすっかり親しくなっていた。 「どうなんでしょう」  もそもそと口を動かし、遼祐は視線を落とす。そもそも天堂家に入っている以上は、日本からも出れない気がしてならなかった。 「お前はどうしたいんだ?」 「えっ?」  顔を上げると真剣な眼差しのルアンが、口にカステラのカスを付けつつ遼祐を見据えていた。 「日本人はどうにも、本音を言いたがらない。常に腹の探り合いのようなことばかりじゃないか」  珍しく憤りを露わにしているのか、ルアンは鼻息荒く言った。 「僕は……」  そこで遼祐は口を噤む。理想を口にしたところで叶わぬ夢。虚しくなるだけだった。 「今のままで、充分に幸せです」  遼祐は笑みを浮かべて言った。  自分の運命はすでに決まっている。オメガとして、芳岡家に相応しい相手との橋渡しになること。それが自分のオメガとして生まれた宿命だ。 「立派な家に輿入れすることが出来ましたから。両親も喜んでいますし――」 「番にしてもらえてなくてもか?」 「ルアン様!」  鋭い指摘に、遼祐は言葉を失った。カルダが慌てて止めに入ってくる。
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