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「俺にはリョウスケが、嘘を言っているようにしか見えないな」 「……そんなことは」 「オメガの発情期がどれ程苦しいのか。それぐらい分かっているはずだろう。愛する者が苦しんでいるのに、どうして放っておくことが出来るんだ。俺には理解できない」  淡々とした口調で述べると、最後のカステラを口に入れている。  ルアンは「今日は疲れた」と言って、腰を上げるとそのまま部屋を出て行ってしまう。いつもは温厚なのに、今日は虫の居所が悪いようだった。  慌てて追いかけるように、カルダも部屋を出てしまう。一人残され、遼祐はテーブルに残された空の箱を見つめた。  自分の言ったことを本心じゃないと、ルアンは見破っていた。確かにルアンと出会って一ヶ月近く経ったが、遼祐と光隆の関係は平行線を辿っている。  遼祐の発情期が収まったことに関して、光隆がどう思ったのかすら分からないままだった。顔を合わせても、不愉快だと言いたげな表情をされるだけで何も聞かれていない。  次の発情期まで二ヶ月はある。それが今は待ち遠しく思えてしまう。  前まではあんなに、この身体を憎く思っていたのに、無いならないで不安が襲った。まるで自分が本当に無価値な人間のように思えてしまうのだ。
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