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商店の建ち並ぶ場所に出ると、夜も深まっていたこともあり、幸いにも静まり返っていた。匂いを嗅ぎつけられたら、危険な目に遭わないとは言い切れない。
心臓が割れんばかりに鼓動を打ち、遼祐は耐えきれずに石橋の上で膝をつく。
荒い息を繰り返し、足の痛みを和らげようと手で摩る。ぬるっとした感触に手を月明かりに照らすと、血がついていた。
痛みと熱に身体は既に、悲鳴を上げていた。それでも此処にいつまでも居て、誰かに見つかりでもしたら悲惨なことになる。
橋の欄干を掴み、遼祐は身体を支え立ち上がる。
一歩踏み出す度に、激痛が走った。痛みに視界が歪む。自分は一体何処に向かい、どうした ら良いのか分からなかった。
港に着くと砂浜を打つ波音が聞こえ、月明かりが水面に反射していた。限界に近い身体をざらつく砂に委ねる。
波音だけが静かに耳を打つ。幼い頃からこの音が好きだった。父と共に来た海――兄と遊んだ海。あの頃は母もまだ笑っていた。
オメガだと分かるまでの、数少ない幸せな宝石だった。
「リョウスケ!」
突然大きな陰が覆い被さり、遼祐は顔をゆっくりと上げる。
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