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「まだ間に合う。これを飲め」
怯える遼祐を尻目に獣人は淡々と言った。
無理矢理手首を掴まれ、手を開かされる。ポケットから何やら包みを取り出すと、手のひらに乗せられた。
「抑制剤だ。発情期を抑えられる」
「そ、そんなものあるわけないっ」
そんな話は聞いたことがなかった。
この十年間。周期毎に訪れる苦痛に精神をすり減らしてきたのだ。それを手のひらに乗せられている小さな包み一つで、解放されるなんて俄かには信じ難い。
「あるわけないと何故言い切れるんだ? お前は世界のことを何でも掌握しているのか?」
獣人の問いかけに言葉が詰まる。口を開けずにいる遼祐に「俺は抑制剤の売りにこの国に来た」と言って、掴んでいた遼祐の腕を離した。
「この国ではオメガは未だに、普通の生活すらままならないと聞いたからだ。お前を見て、それが確証に変わった」
ギラリと光る双眸が、静かに空に向けられた。満天の星空には、鋭利な三日月がぽつりと置かれている。
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