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「来日してまだ一週間ほどだが、鎖国の歴史があるせいか警戒心が非常に強いようだな。俺の姿を見て怯えるならまだしも、何故か塩をかけられた。あれはこの国の風習なのか?」  視線が今度は遼祐に向けられる。  毛に覆われた顔からは細かい表情は読み取れない。それでも不思議と嫌味ではない、子供のような好奇心を滲ませているように見えた。 「……場を清める意味で塩を撒くんです」  気分を害すかと思ったが、獣人は「キリスト教やカトリック教が使う聖水の代わりみたいなものなんだな」と言って納得したように頷いた。 「アジアは仏教が盛んだと聞く。聖水は使わないからだな」  一人で知識を整理する姿に、遼祐は少し拍子抜けした。獣人というぐらいだから、本能を重視すると思っていたが、意外にも知性的であることを知った。  不意に獣人が真顔になり尖った耳を動かす。視線を後ろに向けて、遠くをじっと見据えた。遼祐もつられるように視線を向ける。星と月のぼんやりとした明かりが照らす砂浜には、人の気配は感じられない。  誰もいないはずの場所から目を逸らすことなく、獣人は「仲間が呼んでる」とぽつりと言った。
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