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ガス街灯の淡い光が照らす石橋は、地響きが断続的に身体の芯を貫いてくる。
その発端となるのは、僅かな隙間を行き交う馬車と黒光りする四輪駆動車。
さらにその隙間を縫うようにして芳岡 遼祐は文明開化の波が押し寄せる街を抜け、開放の場所へと足を向けていた。
排気ガスのおかげか、忌まわしいニオイは隠されているようだった。英国紳士風な男性が横をすれ違うも、振り返ることもせずに通り過ぎていく。
微熱を放つこの身体は、一週間の地獄への前兆。着物の隙間から入り込む春の風は、少しだけその熱を和らげてくれる。
遼祐が生まれて二十年目の春。そして終焉の春となる。
紳士淑女の行き交う街路を抜け、すでに人気を失った海辺へと遼祐は辿り着く。
静かな波音に交じるように、並んだ貿易船が軋む音が聞こえた。
その中には見かけない巨大な貿易船も混じっているが、海外からの輸入もある昨今はそう珍しい光景ではない。
それに芳岡家には、優秀なアルファの兄がいる。今にも海外に負けないぐらいの船を作ることが出来るはずだった。
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