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 天堂家の邸宅に着いた頃には、九時を回っていた。正面の玄関口から入るのは憚れて、遼祐は裏口に回る。  見つからないように邸宅内に入れたものの、部屋に向かう長い廊下の途中で光隆に出くわした。  帰宅したばかりなのか、光隆はきっちりとした背広姿だった。光隆は遼祐を見るなり不快感を示すが如く、眉を寄せる。 「随分と遅いご帰宅だな。発情期が近いんじゃなかったのか?」 「……はい」 「部屋から出るどころか外出するとは、これまた大胆だな」  侮蔑の滲む眼差しに、遼祐は俯きつつ「申し訳ございません」と口にした。 「それともなんだ、番にしない俺へのあてつけか」 「そんなことは――」 「だったら何だ? お得意のニオイで公家や貴族でも捕まえに行っていたのか」  嘲笑する光隆に遼祐は首を横に振る。どう弁解しても光隆の口から出る言葉は、オメガである遼祐を愚弄するものばかりだった。  愛などないことぐらい分かっていたが、せめて少しばかしの情は欲しかった。 「いえ、そんなことは決して」 「まぁ、いい。さっさと部屋に戻れ」  言うなり光隆は、遼祐の脇を足早に通り過ぎていく。
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