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「俺が、その袋の皺を伸ばしてやろうか?」 「――袋は問題じゃない! ……これ、進ちゃんにお土産。もっときれいな状態で渡したかったんだけどさ――」 「えっ? 俺、に……?」  驚きすぎて、それ以上の言葉が出てこない。 「ああ。男からの土産なんて、キモくていらねーか?」  少し目線を逸らした長谷川が吐き捨てるように放った言葉を聞いた途端、進次郎は苛立ちを覚えた。 「は? 長谷川、お前、なに言ってんの? ……バカか? 大学行ってるくせに、バカなのか? 嬉しい。土産貰えるなんて、嬉しいに決まってるだろ!」  進次郎は、奪うように長谷川の手からそれ(・・)を受け取った。  さっきから必死に長谷川が奮闘していた皺だらけ(・・・・)の小さな紙袋からは、赤い人形のようなキーホルダーが出てきた。のっぺらぼうで丸い大きな顔、その下には両手足と思しき突起がバンザイの形で飛び出し、ぷっくりした胴体は紺絣(こんがすり)ベスト(チョッキ)を着ている。丸い頭にはベストと同じ生地の頭巾を被っていて、何とも愛らしい。 「それ、さるぼぼ(・・・・)って言うんだ。この前の連休、二泊で飛騨高山方面のツアーの添乗した時、進ちゃんにって買ってきた」 「そうか、有難う。大切にする」 「うん。さるぼぼって、お守りなんだ――特に、赤は『縁結びや勝負運』なんだって。進ちゃん結婚するんだろ? この前ここに来た時、仲居さん達が嬉しそうに話してくれたんだ――おめでとう、進ちゃん。幸せになれよ」  幸せに? 俺が? ――そんな未来、今の自分には想像できない……。  すぅーっと深く煙草を吸い込んだ長谷川は、進次郎にそれがかからない場所に移動してから風下に顔を向けた。そして、徐にふぅーっと口から煙を吐き出す。 「そういえば、前に美味い土産物は何かって進ちゃんに訊かれたことあっただろ? あの宿題の答えね。『妻籠宿・馬籠宿』って知ってる? あそこの、『栗きんとん』が美味いよ。正月に食べるベタベタのアレじゃなくて、栗をつぶして茶巾絞りにしてるやつ。ちょっと高いけど、超オススメ。残念ながら栗のシーズンにしか売らないから、時期的にはここには持ってきてあげらんないけど……」  「――ゴメンな?」肩を竦める長谷川の表情が、だんだんと暗くなっているような気がする……。 「あ、そうだ! もう一つお土産があったんだ! これは、日持ちするって聞いたから持ち歩いてたやつ。やべー! さるぼぼに気を取られ過ぎて、渡すの忘れるとこだったぜ」  立山黒部・金沢ツアーの添乗の時、短い空き時間で買って来てくれたという菓子を、ひょいともう片方のポケットから取り出して放り投げてきた。なんとか落とさずに受け取れた。 「そのきれいな箱、凝った作りだろ? 『RAKUGAN』っていう落雁。ちょっとダジャレっぽかったか? 和三盆を使ってるとかでスゲー美味いから食ってみて! 口の中でホロホロ溶けて、優しい甘さだぞ」  しっかりとした厚い紙でできている赤い箱は、長谷川が言うように凝った作りをしていた。中の菓子も、一つ一つが薄い和紙で丁寧に包まれている。  小さなそれを口に含むと、上品な甘さがフワリと口内に広がった瞬間、儚く消えた――……
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