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 進次郎は相変わらず休日になると長谷川の住む町へ出向いては会えず、残念な日々を送っていた。  周TUWYT⁶ツッy56ty666yuuytyy666囲から同情の視線を向けられ居た堪れない思いをすることもあるが、きっといつか再会できる、という根拠のない自信があるので気にせず遣り過ごす。  なにより同じルーティンをこなすことは、(こと)のほか進次郎の心を落ち着かせ、自ずと慣れない環境への適応を早めていた。 「進次郎君、審判講習会を受けに行ってくれないかな?」  年が明け、春になり高倉家長男の翔が小学5年になった。  少年野球では、学年が上がると公式試合が増える。チームの監督やコーチ陣は高齢だ。そんな彼らは、(かね)てから翔にくっついて練習に特別参加している若い進次郎に目を付けた。 「え? 俺、野球、未経験ですし……」 「だからルールを覚えに行くんだよ。どうだい? 私達も年寄りだし、なによりこの辺の保護者達は皆、日曜も働いていてなかなか手伝いを頼めないんだよ」  確かに。練習の見学は殆ど母親で、それもお茶を配るための当番制。父親は経験者が1~2名、休みが取れた場合にやってくる程度。日曜祭日に仕事の業種も多い――かつて働いていたホテルにも、『やっと休みが取れた』と言い平日に観光に来る客も少なくなかった。 「……俺に、できるでしょうか?」 「そのための講習会だろ? 若いんだから、大丈夫だ。頼む」  高齢の監督やコーチに頭を下げられてしまえば、断れるはずもない。  結局、進次郎は講習を受け、試合の度に塁審として遠征に駆り出されることになった。  運転免許を持っていることも好都合で、高倉家のミニバンで荷物運搬を頼まれ、シーズンに入ると天候不順で試合が中止にならない限り進次郎の休みは試合で丸一日潰れてしまい、徐々に長谷川の住む町への足が遠のいた。 「進ちゃん、野球の手伝い負担になってない?」  高倉の妻は、時折、心配そうに訊いてくる。 「いえ。……俺、集団でなにかをしたことが無くて。……初めてで、楽しいです。それに翔が活躍する様子も、自分の事みたいに嬉しくて」 「……そう。ならいいんだけど、最近お友達探しにも行けてないでしょう?」  諦めたわけではない。雨天や、試合のない日には出掛けている。確かに試合シーズンに入り、頻度はガクンと落ちてはいるが――。 「大丈夫です。必ず、探し出します。それより今度、俺にもスコアのつけ方を教えてください」 「勿論! 進ちゃん、野球に興味持ったの?」  試合には、進次郎の他に高倉の妻も必ずと言っていいほど同行する。何故なら、スコアをつけられる保護者が彼女しかいないのだ。  進次郎は、稀に荷物持ちだけで駆り出される日もある。そんな時、自分がスコアをつけられれば、高倉の妻を休ませることができるだろう。  高倉も進次郎も、平日は深夜の帰宅。土曜は昼から営業で、仕込みをするために朝早くから出勤するが、帰宅が早いわけではない。家族の団らんといえば、休日の夕食だけだ。すれ違いの生活の中で、高倉の妻は文句ひとつ言わない。だからこそ、自分にできることをしたいと思ったのだ。
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