エピローグ

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「あとで店に行くから、伝票を準備しておくように高倉さんに言っといて」 「ああ、分かった」  土曜日は、進次郎のお迎えと夕食を兼ねて【割烹たかくら】に行き、経理を手伝っている。  日曜日は、翔が卒団した後の少年野球チームの指導を続けている。進次郎は翔が卒団した一年後に辞めてしまったが、おれは細々と続けていて、今年からはどういうわけだか監督を拝命した。  チーム活動の後は高倉家でさっとシャワーを浴びてから夕飯をご馳走になり、翔の勉強が終わったころに進次郎が迎えに来てくれる。 「こんばんは。優太を迎えに来ました」 「あら、進ちゃんいらっしゃい。今日は遠征先が遠かったみたいで、帰って来たのが遅いのよ。たった今、翔のところに上がったばかりだからまだ少し時間がかかるかもしれないわ。丁度、デザートにシャインマスカットを食べようと思ってたところなのよ。早く上がってらっしゃい」 「進、早く上がれ。美味いぞ」 「はい。じゃあ、車を駐車場に停めてきます」  進次郎が迎えに来たようだ。 「優太先生、のお迎え嬉しいっすねー!」 「お前、高校生になった途端に超生意気になったよなー! 今度の期末でトップ取れなかったら、千本ノックさせるからな!」 「ムリムリ! 取れるわけないし!」 「はあああー? おれが教えてんのに? おれ、あの学校でトップ譲ったことなんか一回もないぜ」 「だから、優太先生と僕はが違うの。中間でトップ取れたのは、なんだからな!」 「弱気だねー。でも大丈夫、絶対に取らせてやる! そんじゃ、おれはがお迎えに来たから帰るな? この問題集やっとけよ」 「――はい。あ、僕も進兄ちゃんに挨拶……痛ッ! 何すんだよー!」  ドアに手をかけた翔の腕を引っ張って椅子に座らせた。翔のヤロー、無駄に背は伸びるしイケメンになりやがって! 「ふふん! テスト前だろ。進次郎の顔はご褒美だからまだ見せらんねーな―! じゃあなー」 「優太先生のイジワル!」 「ははっ、イジワルで結構。翔は、こんなイジワルに負けないようにせいぜい勉強しとけ! 今週は、平日にも時間とって来てやるからな」 「……はい。あの、進兄ちゃんによろしく言っといて」 「ああ、分かった」  急いで階段を降りると、高倉夫妻と一緒に進次郎がぶどうを食べていた。 「お待たせ!」 「ああ、終わったのか?」 「翔はバカじゃないから、問題集を渡してやっておくように言ってきた」 「優太君、いつも有難う」 「いえ、おれの後輩なので頑張って欲しいだけです。来週から期末なので、今週は平日にも教えに来させてもらいます」 「長谷川さん。店も翔も世話になりっぱなしで、いつもすみません」 「いえいえ。おれは、進次郎に世話になりっぱなしなんで」 「――ッ! おい……」 「うふふ。二人とも仲良しで良いわね」 「……帰るぞ」 「うん、そうだな。お邪魔しました」 「お邪魔しました――」 「二人とも、またいらっしゃいね!」 「「はい」」  帰る場所を持たない二人にとって、高倉家は唯一のみたいな存在だ。それを知っている高倉夫妻は、いつでも二人を手放しで迎え入れてくれる。  ――進次郎との再会は、おれの人生を180度幸せの方向に導いてくれた。  根気強く郵便受けにメモを入れ続けてくれて、ありがとう。  おれが贈ったものを大切にしてくれていて、ありがとう。  こんなおれを愛してくれて……、本当にありがとう。 「早く乗れ」 「……ん。いつも迎えに来てくれて、ありがとう」 「当たり前のことだ」 「……」  帰ろう、二人の家に――。 【旅し、恋し、共し。】(完)
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