蟻勇軍の花嫁

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 私の国は今住んでいる人々の先代のさらに先代、大昔の人々が作った巨大且つ重厚な壁によって覆われていた。一体なぜ昔の人々がこのような建築物を作ったのか、その理由は極めてシンプル。壁の向こうの世界は全て亜人たちの領土であるからだ。  亜人は人間以外の生物の特徴を兼ね備えた二足歩行の知的生命体である。動物譲りの身体能力と人間の知能を併せ持つ彼らは数百年前に登場したのと同時に進化に遅れた生命体、人類を駆逐しようと考えた。  もちろん人間たちはそんな理由で滅ぼされるわけにはいかないと、亜人たちとの戦争を行った。だが結果だけ言ってしまうと人間の力は亜人たちには全く通用しなかった。剣を通さぬ皮膚や羽毛、鎧を貫く爪や牙、それに一日中戦っていられる体力。そもそものスペックが違いすぎたのである。  結局人間は敗走を余儀なくされ巨大な壁を築きその中に籠城すること以外もはや何のすべがなかった。もっともその壁だって亜人でも突破するのがやや難しい程度でしかなくもはやわずかに生き残った人間たちは絶望に震えていた。  だが、そのある日。彼らの壁の上に一体の亜人が現れた。誰もがその時、もう人類は終わりだと思った。しかしその亜人は暴虐を一切振るわず、壁の警備を行っていた人間にこう伝えた。 「私たち亜人連合は、条件次第によっては君たち人間と永遠の和平を結んでも構わない。君たちのトップをここに連れてきてくれ、話がしたい」  それから30分としない内に当時の人間のリーダーが現れた。永遠の和平という言葉に疑惑を持ちながらも、彼はもしかすれば何かに怯え続ける自分たちの人生はこれで終わるのでは、と思うとどれだけ相手が恐ろしかろうと逃げ出すわけにはいかなかった。  人間のリーダーが着くと、交渉役の亜人はすぐに話を切り出した。当時からほんの五年前、今の壁の人間たちが切り捨てた人間の女に性行為を行い自らの子を出産させた亜人がいたという話を始めたのだった。その蛮行の一部始終を聞いた時、人間のリーダーはこぶしを握り怒りを我慢するが次に交渉役の亜人が言った言葉でその怒りはどこかに飛んで行ってしまった。  実はその亜人の子供だが他の同族、同年代の子供と比べてもはるかに強い力を持っていることが分かったのだ。この他にも数例同じようなことがあったが、どの子供たちも現時点でさえ我が戦士たちと同等以上の力を持っていた。  これから亜人連合と名乗る者たちが導き出した解は一つだった。  亜人と人間が交配することによって生まれた亜人はより強靭となる、ということだった。そのことを踏まえての亜人連合が出した永遠の和平の条件を交渉役の亜人は人間のリーダーに伝えた。 「10年に一度君たちは私たちの優れた後進を作るための「姫」と「王子」を最低でも20人、私たちに献上してほしい。そうすれば、我々亜人連合が野良の亜人共から君たちを守ろう」  人間のリーダーも最初は断った。こんな人道が欠落した取引に応じることはできないと。すると交渉役の亜人は壁の下を見るように言った。その言葉通り人間のリーダーは下を見ると壁の周りには夥しい量の亜人たちが戦闘態勢で待機していたのだった。明確な脅しだった、言うことを聞かないのであれば殺すという。  その光景と戦力差を見てついに絶望してしまうリーダーは交渉を結び交渉役の亜人が持っていた契約書にサインを行ってしまい、この不条理な和平は受理されてしまったのだった  なんでいきなりこんな昔の話を思い出しているのか、という質問に対して私は現実逃避とだけ言っておく。もうここまでの話を聞いていれば大体私の状況はわかると思うが、それでも一応言葉といて言っておきたいと思う。  私、桜良16歳は人間を存続させるための生贄、「姫」に選ばれました。
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