蟻勇軍の花嫁

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 私はこの日父に呼ばれ、父と共にリビングで座っていた。普段私や母に横暴な事ばかりする父であるがこの日は引きつるような笑顔を取っていた。一方私は父の表情とは反対に何の感慨もない無表情を取っていた。と言っても私は辛い時も悲しい時も基本的に無表情で物心ついたころから感情を発露したことなどないが。  そんなことを考えると入り口側に行けるドアが開く。それに気づいた父は私の腕を掴み私を無理やり立たし、入ってきた人物に対して深く礼をする 「いやいや、猪暴(ちょぼう)殿!今日はよく来てくださいました!ほら、桜良、あいさつしなさい!!」 「…………はい、今日はよろしくお願します」 「はは、桜麻(おうま)さんに桜良さん。そんなに緊張しないでください。今日は打ち合わせでしかありませんから」  入ってきた猪暴と呼ばれた人物は懇切丁寧な口調でお辞儀をし私たち二人にソファーに座るように促した。その紳士然とした態度は私のように礼儀作法も碌に教えてもらえていない人間から見ても強い好感を持つことができた。もっともそれは、  彼がでっぷりと太った猪の亜人でなければ、の話ではあるが。 その巨体は縦で軽く私の倍以上有り、横幅は3倍程度ではきかないであろう。父が今日のために改築しなければおそらく家にまともな方法で入ることはできなかっただろう。  白いメッシュが入った茶色い針のような体毛や口から飛び出て生えている黄金の牙一対、おそらくオーダーメイドで作られた黒いタクシードが中途半端に気取ってしまっているため成金的なイメージを連想させてしまう。 「………?どうしましたか、桜良さん?座って話しましょう?」 「………はい、すみません猪暴様」  私は猪暴の言葉に生返事で返すとうながすように父の隣へと座る。父は一瞬相手に気を使わせてしまったことにいら立ったのか一瞬私を横目で睨む。中々に鋭い威圧的な目つきだったが私は何も感じない。一々こんなことで萎縮するほどの感情は今の私にはもうないからだ。 「それで猪暴殿。式の日にちについてですが………」 「はい、予告通り一か月後の和平記念日に盛大に行いたいと思っております 私と桜良さん、二人の結婚式をね」  と猪暴は私を見ながら話す。口調は紳士的だがその目は劣情を隠しておらず、私の顔や体を見て指を組んだ手で口元を隠しつつも舌なめずりをする。  さて、それではなぜ私がこんな女として絶体絶命絶望的な状況になっているかというとそれはもちろん人間と亜人の和平の象徴「姫」に選ばれたからであるが、それには判断基準がある。  それは未婚の第二子以下の12歳以上30歳以下の女性である。 曰く亜人たちに言うにはあまりにも若すぎると「しつけるのが面倒」で年を取りすぎると「跡継ぎを生ませられ辛い」とのことでこのような判断基準ができているのである。  まぁ早い話16歳で家督を告げる見込みが全くない三女の私は思いっきり条件を満たしてしまっているのである。だが私は自分が「姫」に選ばれるとは正直思っていなかった。私は自分自身が優れた容姿をしているとは思っていないし内面に至っては自分でも魅力などこれっぽっちのない自覚があったからだ。  だがそんな私を「姫」へと指名したのがあの猪暴という亜人である。猪の亜人の一族はは戦争時の中核メンバーで「姫の選定」をすることができるポジションにいる有力貴族である。 なぜそんな有力者が私のような底辺貴族の能面三女を選んだのか、一度だけ二人きりの時、聞いてみたことがあった。すると彼はこう言った。 「私はね、好きなのだよ無表情な娘が快感の花を咲かせる瞬間を見るのが、ね」  あ、ダメだコイツ、もういろいろダメ。自分が格好いいセリフを言っていると思ってるところがもう最高にダメ。普通に感じざるえなかった
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